Hyotei

□Wind,Cold
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今日は朝から調子が悪かった。
体調管理はしっかりしているつもりだったのだが。
だがそんなことで部活を休むわけにはいかない。
そう思いながら俺は部室に行く準備をする。


「あれ?日吉やん」

「…忍足さん」


ひらひらと手を振る。


「さて、いっしょに行くか」

本当なら反論のひとつでもしたいところだが、頭が痛い。
黙って睨むと、当の本人は何の気にするようでなく笑った。


「…ん?日吉なんか顔赤くないか?」

「そうですか?…気のせいですよ」

「…ならいいんやけど」

そんなに顔に出てるのか。
少し気をつけなければ、と思いつつ外に出る。
玄関を出れば風が吹き付ける。
思わず鳥肌がたった。

「今日は風が強いなぁ」

「…そうですね」


この風がとても寒く感じた。
頬に手を当ててみる。
自分の頬は熱を持っている様に熱かった。


「…っくしゅん」

「誰かがヒヨんこと噂しとるな」

「馬鹿なこと言わな…くしゅっ」


やっぱり寒い。しかも噂って何だ。噂って。
そしてまた風が身を切るように通り過ぎていく。

「…寒くないですか?」

「んー、別に普通やけど」


俺の感覚がおかしいのか。
忍足さんがおかしいのか。
なんだか考えるのも嫌になってきた。
頭がズキズキと痛む。鳥肌がたちっぱなしだ。
もしかしたら、重症なのかもしれない。

いざ自覚してみると余計に身体が鉛のように重い。
意識がだんだんぼーっとしてくる。


「おーい、ヒヨ…大丈夫か?」

「…大丈夫です」


喋るのもだるく感じる。
瞬間、足元がグラついた。


「おっと、ほんま大丈夫か?」


忍足さんが支えてくれたが、正直部活どころの話ではないだろう。
いつもなら離してください、などと言って彼を突き放すところだが。
なんだか人の体温が心地良くてそのまま身を預けた。

―普段なら、絶対にしないが。


「…ヒヨ、熱あるやろ」
「…ないです…」

「どれどれ…見せてみ」


肩を優しく掴まれ、真正面に向き合う。
そしていきなり忍足さんの顔がアップになった。


「うわ…めっちゃ熱いやん」

喋ると息がかかる。そんな近さに一気に顔が熱くなった。

「ちょ、離れてください!」


あわてて身を引こうとすると腕を掴まれた。


「こら、ヒヨはこれから保健室に行かなあかんやろ?」

「べ、別に部活に出れますよ!」


赤い顔を見られたくないから目を逸らした。


「まったく、強情やなぁ…」


ふう、とため息をつく。
この火照った顔は風邪のせいだ。
なぜかこの時だけは冷たい風が気持ちよかった。


「…せやな、このまま保健室行かんかったらお姫様抱っこして連れてくで」

「い、行きますから」

「…お姫様抱っこ、そんなに嫌か?」

「嫌に決まってるでしょう」


馬鹿ですかアンタは、と毒を吐く。
男が男を抱っこして何が楽しいのだ。
余計に頭が痛くなる。


「うん、いつものヒヨに戻った」


そして頭をポンポンと叩く。
にこ、と微笑うと唇に何か暖かいものが当たった。


「ほな、跡部には言っとくわ」

くるっと踵を返し、部室に行ってしまった。
残ったのは彼の香水の匂い。
この顔の火照りは、どうしてくれるんだ。

(こっちは病人なんだ、少しは気を使ってくれ)


―END―

*  *  *  *
(あとがき)

風邪を引いてしまった日吉くん
忍足は試練のとき


08.10.09
09.01.11加筆

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