Hyotei
□雨、のちキラリ
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しとしと、雨が降る。
そんな灰色の空に、キラリ。
<雨、のちキラリ>
『なぁ、明日どっか行こうや』
『…いいですよ』
彼とそんな約束をしたのが昨日。
出掛ける前に、天気予報をチェックする。
『…今日は所々で雨が降る予報です。お出かけするときは折り畳み傘を…」
「…昨日は晴れだったのに」
そう呟いて日吉は折り畳み傘を持つ。
―今は、曇りか。
はあ、とひとつ小さなため息をつき、待ち合わせの場所に向かった。
「来たな、さ、行こか」
忍足はもうすでに来ていた。
「はい。…で、今日の目的は?」
「新作のラブロマ…」
「あぁそうですか」
「まだ全部言ってへんで」
「…聞いた俺が間違いでした」
何故そんなにラブロマンスが好きなんだろう、と日吉は思った。
顔だって悪くない。むしろかなりいいと思う。
「(黙っていれば、もっとモテるだろうに)」
隣をゆっくりと歩いている忍足の顔をちらっと見つめて前を向いた。
「…なんや、雨か?」
忍足が呟くと、ぽつぽつと小さい雫が落ちてきた。
「忍足さんとどっか行くと、絶対晴れになりませんよね」
「…それって俺が雨男って言いたいんか?」
「まぁ簡単に言えばそうなりますね」
相変わらず毒舌ぶりは変わらないな、と忍足は苦笑した。
「もう少しで着くから、はよ歩くで」
「わかりました」
さっき笑ったのがいけなかったのか、ちょっとムッとしている態度だ。
そんなことさえも可愛いと思ってしまう俺は末期なんだろうか、と考えながら忍足は足早に目的地に向かった。
「…忍足さんは、雨でも操ってるんですか?」
「へ?…あぁ…」
窓の外を見れば、さっきまでしとしと降っていた雨が今は止んでいる。
「やっぱり、雨男ですね」
「そないなこと言われてもなぁ…侑ちゃん困っちゃう☆」
「黙ってください。…自分でもそう思うときありませんか?」
「せやなぁ…でもまぁ、晴れもいいけど適温の曇りがちょうどいいんちゃう?」
俺は晴れすぎて日射しがキツいのはちょっと苦手や、と笑う。
「…雨は困りますけどね」
なんだって似合うのに、と思う。
今でも、ちょっと雨に濡れた漆黒の髪は綺麗だと思うのだ。
「(俺も、相当重症だな)」
そんな風に思うのが何故か嬉しくて。
ばれないように、こっそりと笑った。
忍足の用事を済ませ、店内を出る。
その頃には止んでいた雨がまた降り出していた。
「結局雨に濡れるんか…」
「さすがにもう時間は潰せませんよ」
この日吉の発言は、どう取って言いのだろうかと怪訝な顔をする忍足。
「…その映画、一緒に見るんでしょう?」
正直、日吉本人が嫌がるのではないかと思っていたのだ。
ようやく意味を理解した忍足は、ゆっくりと微笑んだ。
「…せやな、はよ帰ろか」
ふい、と顔を背けるが後ろからでも分かるほどの耳の赤さにまた笑いを零すのだった。
「…ほら、行きますよっ」
忍足の頭上に差し出されたのは小さな黒い傘。
「あぁ、行こか」
大の男2人がひとつの傘の下で一緒に歩くのは世間的にどうかと思うが、今日は仕方ない。
「(可愛い恋人のお誘いやし)」
道行く人にばれないように、ふたりの間に手をつないで。
しとしと降る雨の中、雲の切れ間から光が一瞬キラリと輝いた。
―END―
* * * *
(あとがき)
雨男忍足とツンデレ日吉のいちゃラブデートの巻。
08.10.06
09.01.10加筆