Hyotei

□アップルパイ
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第一、あの人が悪いんだ。

ケーキが食べたい、なんて言うから。



◆アップルパイ◆



「明日、誕生日ですよね」

今日は10月3日。

「あーん?…祝ってくれんのか?」

隣に座っている俺様、もとい俺の恋人の跡部さんの誕生日は明日。
プレゼントを未だ決めていなかった俺は、思い切って本人に聞いてみた。


「えぇ、できる範囲で」

「じゃあプレゼントはおま…」

「プレゼントは俺、なんて言いませんよね?」


にこ、と笑ってやる。
なんだ。忍足さんと思考回路がそっくりだ。

「…ちッ、駄目か」

「アンタも忍足さんと同じこと言いますね」

「忍足のヤロー…」


そういえば滝さんが気をつけろ、って言ってたような気がする。
ようやく意味が分かって、一つため息を吐いた。


「…で、本当に何がいいんですか?」

「お前がくれるものならなんだって嬉しいぜ」

「…〜〜ッッ」

俺をからかった後は必ず笑う。
そんな笑顔も好きなんだ、なんて本人には絶対言ってやらない。


「…くくっ…そうだな、お前の作ったケーキが食いたい」

「え?」

「ケーキだ。若お手製のなぁ?」

「俺、料理とかうまくないですよ」

「俺様はお前の作ったものが食いてぇんだよ」

「…分かりました、努力します。でも、味の保障はしませんよ」

「あぁ、わかってる」


本当にケーキなんて作れるのだろうか。
ちょっと不安になりながらも、隣で笑う青い瞳に引き込まれていくのだった。


「(…あんまり甘いものは、やめておこう)」

学校帰りに本屋に立ち寄り、本をぱらぱらと捲る。
というか、正直恥ずかしい。
男子中学生がお菓子の本を真剣に眺めているのだ。

「(樺地に、聞いてみれば良かったな)」

なんて後悔しながら、適当に選んでレジに向かう。
そして恋人の誕生日のために奮闘するのだった。

.


そして10月4日。
レギュラー全員でお祝いした後、俺は跡部さんの部屋にいた。


「ちゃんと作れただろうな?あーん?」

「努力はしましたけど」

「見せてみろ」


どれだけ楽しみにしていたのだろうか。
あまり詳しくない俺でもわかるような紅茶を出してきた。
取り合えず、昨日の夜家族に見つからないようにこっそりと作ったものを取り出す。

「…どうぞ」

俺が作ったのはアップルパイだった。
ちょうど近所でおすそ分けしてしてもらった大量のリンゴを、ふんだんに使ったアップルパイ。
リンゴが大量に入っているため、見た目はちょっと不恰好だが。


「…見た目はちょっとアレですけど、味はまだ食べれると思いますよ」

さすがに誕生日にまずいものを持っていく訳には行かず、自分で毒見はした。
やっぱり相手の反応は気になるもので、ちらりと跡部さんの顔色を伺った。

「……」

跡部さんは黙ったままアップルパイに手を伸ばす。
さく、といい音が響くとアップルパイは跡部さんの口の中に消えた。

「…どうですか?」

感想を促す。彼の舌に合うといいのだが。


「……うまい」


小さい声で呟くと、とても嬉しそうな笑顔を見せた。

「なかなかよく出来てるじゃねぇか」


この笑顔が見たかったのだ。
テニスをしてる時や他の人と話している時とは違うこの笑顔が。


「…良かったです」

「あぁ、お前も食え」

といってフォークに刺さっているパイを近づけてきた。


「ほら、食えよ」

「……はい?」

これぐらい自分で食べられる。
だがパイはどんどん迫ってくる。


「ったく…口開けろ」

「自分で食べれますよ!」

「つべこべ言わずに食え」

「嫌です!…ッ!?」


何かが口の中に入ってきた。驚いて口を開けると、甘い香りが鼻孔を擽った。


「…ん…」

口の中は甘いリンゴが支配した。
一生懸命に飲み下そうと口を動かす。

「どうだ?うまいだろ」

「っ、急に入れないで下さい!」

「はッ、最初から素直に口開けときゃいいんだよ」

そしてさも面白そうに笑うんだ。


「…何か言う言葉は?」

「…誕生日、おめでとうございます」

「あぁ、ありがとう」


本当は反論したいが、今日だけは特別だ。
どちらからとも言えないキスは、仄かに甘いリンゴの香りがした。


―END―


*  *  *  *
(あとがき)

初小説です!
跡部様お誕生日おめでとう!!
初は跡日で甘ですね…;
日吉はけっこう料理うまいと思います^^


08.10.05
09.01.10加筆

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