□日進月歩
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8月10日。



今日は高杉晋助の誕生日である。



けれど高杉の様子は普段と全く変わらず、いつもの様に甲板に座り、キセルをふかしていた。

「晋助様!晋助様!」

また子が声をかける。

「誕生日っスよね!?ケーキ作ってきたっス!」

嬉しそうに、ケーキが入っているであろう箱を持っていた。

高杉本人より、明らかにまた子の方がはしゃいでいる。

・・・・・・まあ、高杉がはしゃいでいる姿は想像も出来ないが。

「晋助様の口に合うかどうか分からないっスけど・・・」

少し顔を赤らめながら、また子は箱を差し出した。

しかし高杉は見向きもしない。

「・・・また子」

「はい!?」

突然話しかけられ、また子は驚き目を丸くした。





「お前さんは・・・誕生日を迎えると、嬉しいか?」



「えっ・・・・・・」





台詞の意味が分からなかった。

人間は自分の誕生日が来ると、誰しも嬉しくなるものではないのだろうか?


「俺ァひとつ年をとった、としか思わねぇ」


つまり、祝われて欲しくないと言っているのだろうか。

高杉はまた子と目も合わせぬまま、甲板から出て行った。



「晋助様・・・・・・?」



ひとり残されたまた子は、ポツリと呟いた。









「晋助、今日は誕生日でござったのか。部下達が言っていた」

万斉が言う。すると高杉は「だったら何だ」と素っ気なく返した。

「おや、嬉しくないのでござるか?」

「もうそんな年じゃねぇだろ」

そう答えると、万斉はしばし高杉を観察してから、言った。

「どうにも・・・それだけが理由なわけでは無いのでござろう?」

それには高杉は何も答えぬまま、万斉に背中を向ける。

しかし自室へと入る時、独り言のように言った。



「ただ・・・・・・一歩、死に近付いただけだろ」



そして姿を消した。



「・・・・・・やれやれ。また悪い夢でも見たのか・・・・・・」




そこへ、また子がやって来た。

手には大きな箱。

「晋助様は?」

「部屋に入って行ったでござる」

「そうっスか・・・・・・」

また子はハア〜とため息をついた。

「・・・迷惑だったんスかね?」

今日という日にち、大事そうに持つ箱、そして高杉の態度から、万斉はまた子がどうして落ち込んでいるのかすぐにピンときた。

「大丈夫でござろう。あいつももう子供ではない」





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