りんごの長書物。
□Prickle
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家の鍵と携帯電話を取りに帰るため、電車に揺られていた。
郵送で送ってもらってしまおうかと悩んだ。
しかし母の「帰ってらっしゃい」という怒気を含んだ言葉に気圧されて帰る決心をした。
仕方ないか…。先週帰ったときは殆ど口を聞かずに家を出てしまった。
私を溺愛する両親としては、久々の娘の帰省を心待ちにしていたに違いない。
それがさっさと帰ってしまったのだから。
その遠因となった人物を思い浮べる。
ヒロトの家に泊まって一週間近く、毎日……Hをしてしまっている。
まずいよねぇ。
何の形にもはまらずに、身体を重ねる。それはよくないこと。
わかっていても、ヒロトの熱に支配されてしまう。
そしてそれが、悔しいけれど、この上なく心地いいのだ。
昨夜のことが頭をよぎり、顔が熱くなる。
あんなにエロいヤツだったなんて知らなかった。
目的の駅に到着し、階段を登っていく。すると、改札の向こうに懐かしい顔を見つけた。
見つけてしまった。
先週会ったばかりだから、懐かしいという表現はおかしいのかもしれないけれど。
懐かしかった。
色白の肌も、細身の体も、少し神経質そうな眉も。
―――諒。
とっさに柱の影に身を隠す。
諒はまだ私に気付いていない。改札は一つだけ。通らないわけにはいかない。
何でいるの?誰かと待ち合わせ?――智子と?
智子とまで鉢合わせて笑顔でいる自信無いし!
智子の普段使う駅はこの駅だ。
そして今日は土曜日。駅で待ち合わせて出かけるなら……今が午前10時47分、おそらく待ち合わせは11時。
諒たちがいなくなるのを待ってから駅を出よう。
姑息な計算をしつつ、私はその時を待った。
しかし、11時を過ぎて、さらに15分を過ぎても諒はまだ改札にたたずんでいた。