りんごの長書物。


□Precious
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「おい、これいったい何はいってんだよ」

かっこつけて「運ぶよ」なんて言ってみたものの、その重さたるや相当のものだった。

「えーと、確か味噌と洗剤とお米と油とインスタントコーヒーのギフトセットかな?」

「……どれもこっちで買えるだろ?」

ハナの家は地元では結構有名な職人の家だ。お中元、お歳暮類が毎年大量に届くと聞いたことがある。また、お隣さんとしてその恩恵にあずかったことも数々ある。

しかしこの段ボール一つに良く詰め込んだ。

「味噌以外は全部お中元の頂き物なの。どれも…自分で買ったら…結構高くつくでしょ」

ハナは階段を昇るだけで息を切らしている。

毎日この階段を往復しているくせに。

その体力と細い腕でこの荷物を運ぶなんて自殺行為だ。

「俺がいてよかったな」

ハナにではなく独り言をつぶやいた。

自分より前を歩いていたハナは自分に言われたと思ったのだろう「エヘッ」という音を付けたくなるような笑顔を見せて笑った。

こいつは…本当に無駄に可愛いな。

心臓がドキリとする。

ガキの頃からよくモテていた。

ガキの頃から一緒だから特に女として意識したことはなかった。

けれど、ある一時期からハナが他の女の子達よりもかなり可愛い分類に入ることがわかってきた。

幼なじみというポジションを他の男共に羨ましがられたりもした。

ただ、ドキドキして声もかけられなくなるような、話ができただけで一日笑っていられるような恋愛感情を抱くのはいつも別の女の子だった。

そして大人になりそんな恋愛感情とは縁遠くなって、体の欲が混じるようになってもハナは対象外。

家族に性欲をもたないようにハナに性欲はもたない。……はずだった。

でも、今、ハナがどうしようもなく可愛かった。

何故なのかはわからない。
ハナの元彼を思う姿に自分の昔亡くしてしまったものをみたからなのか。
恋を失ったハナへの同情か。
温かいハナのぬくもりに単純に性欲に火が点き、その熱に浮かされているのか。
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