Novel

□猫になれ
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猫か。獄寺って本当猫みたいだよな。
猫にする、ってあれか?猫耳や尻尾が生えてきちゃって、手足にも肉球が…みたいなやつ。
…おお!何か想像したら結構いいかも。耳とか触ったら感じちゃうあれだろ。

彼氏のオレにあんな態度取るんだ。少しぐらい懲らしめても、罰は当たらないだろ。

「えーと、何なに。コップに水を張り、呪いをかけたい人物の毛髪を一本浮かべ念じるのみ…結構簡単な」

幸いここは獄寺の家、探せば毛髪なんていくらでも出てくる。勝手にコップを出してきて、オレは獄寺を思い浮かべながら念じた。

別に、呪いなんて信じていなかった。元々占いとかも信じないタチだったし、ただのお遊びでやってみただけ。本当になったらいいな、っていう単なる希望と好奇心。
それなのに…。

トントン。

ふいに玄関の扉を叩く音がして、目を閉じていたオレはゆっくりと顔を上げて視線をそちらに向けた。
気のせいかと思うような、控えめなノックの音。一体誰だ?

内側の覗き穴から覗いてみても、外には誰もいない。不思議に思いながらも玄関の扉を開くと、やっぱり誰もいなかった。

「おかしいな。確かに何か音が…」

何気なく扉の裏側に目線を落とす。その先には、一匹の猫がいた。
銀色の毛並みを持つ、綺麗な猫。猫の顔の違いとかあんまりわかんねえけど、見た瞬間多分美人なんだろうなと思った。

オレと目が合った猫は、ぷいとそっぽを向いて当然とでも言うかのように開けている扉から室内に入っていく。
何だ、こいつの態度。オレ、動物からは好かれる方なはずなのになあ。

「おい、待てって…。獄寺に怒られるよ」

猫が大好きな獄寺だけど、知らない猫を勝手に家に上がらせたとなれば、絶対怒られるに決まっている。
余計な争いの種は摘んでおこうと、猫の首根っこを引っつかんで持ち上げた。
綺麗な翡翠色をした硝子玉みたいな瞳と視線がぶつかって、ふと「あ。獄寺の瞳と同じだ」と思った。

「…あれ?これって…」

首にかかっていた腕時計。何か見たことがあると思ったら、これ獄寺が最近つけてるやつじゃねえか。確か今日も。
今、首輪の替わりに腕時計はめんのが流行ってんのか?

いや、そんなことこの際どうでもいい。問題は、何故この猫が獄寺の時計をはめてるのかってことだ。
少し考えたオレは、ありえない答えに行き着いてしまった。信じたくないけど、この状況からしてこれしかない。

「どうしよう…獄寺がマジで猫になっちゃった!!」



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