Novel

□犬、飼いました。
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「てめー何してやがる!!」
「えっ?だってそんなベッドの上で誘われたら、無視するわけにはいかないっしょ」
「誰がいつ、誘った!?」

そう言っている間にも服の中に手が入ってきて、その手の冷たさに一気に鳥肌が立つ。その上首筋や耳に気色の悪い唇を押し付けてくるから、もう我慢ならない。
こいつ、調子に乗りやがって!

「おい…っ犬はこんなことしねーだろ!」
「するする!これもスキンシップなのなー」
「い、いやっ…」

このままだとやばい。本能的にそう悟ったオレは、強行手段に出ることを決意した。
同じ男としてこの攻撃はいささか苛まれるが、自分の身を守るためだ。迷いは全くと言っていい程なかった。

「くらえ!!」

ちーん。渾身の力を込めて膝蹴りしてやった。何処にってそりゃ、言えねえけどよ。まあぶっちゃけ、とっても大事なところに。

効果は抜群だったようで、蹴られた本人はあまりの痛さにベッドから転げ落ち、床の上で声もなく身悶えている。
さすがにやりすぎたか?

「ひ…ひでえよ、獄寺ぁー…」
「ああん?お前が悪いんだろが」
「オレのバットが使いものにならなくなったら、どう責任取ってくれんだよ…!」
「お願いだからいっぺん死んでこい」

全く懲りていない様子に溜め息をつくと山本はぴくりと反応し、前屈みで頭を地面にこすりつけた格好のままぼそりと呟いた。

「…ごめん、調子乗った。こんなことするために来た訳じゃねえんだ」

沈んだ声音。何だか、野球バカにしては珍しく落ち込んでいる。らしくない。

「獄寺、一人で寂しいんじゃねえかと思って…本当は犬とか猫とか買ってやりたかったけど、中学生にそんな金ねえし」
「……別にオレは、」
「一緒にいることぐらいしか出来ねえから…オレが犬の代わりになれたらって思って」

オレは別に一人でも寂しくない。ずっと一人だったし、一人の方が楽だ。でもそんな風に言われたら、少し揺らぎそうになる。

「でもぶっちゃけそんなの口実で、本当はオレが獄寺と一緒にいたかっただけなんだ」
「…山本」

顔を上げた山本の顔は真剣そのもの。その雰囲気にのまれてしばらく見つめ合う。
そんな風に思っていたなんて…。

「獄寺…」
「お前、気持ち悪い」

あ。つい本音が。
オレの言葉に山本はひどく傷ついた顔をしたが、本当のことなので訂正するつもりはさらさらない。
あーマジ鳥肌立った。

「一緒にいたいって何だよ、恋人同士じゃあるまいし。いい加減にしろ」
「そ…そうですよねー」

ショックで空笑いしている山本は少し哀れだ。
情けをかけてやるならば、彼の気持ちは本当に少しだけ、ほんの少しだけ嬉しかった。

「…まあ、たまになら来てもいいぞ」
「え…?」
「間違っても毎日とかは嫌だけど、たまーになら来てもいい」

こんな気持ち悪い奴でも、話し相手にはなるだろうし。
オレの言葉に山本は感動して震えているようだったから、慌てて重要なことを付け加えた。

「だからそのコスプレは絶っ対にしてくんな」

捨て猫拾ってくるとか、何処かで犬貰ってくるとか、探せば他に方法は色々あっただろうに。

こんな気持ち悪い犬を飼うことを選んだオレの方も、結構どうかしてるのかもしれない。




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