Novel

□犬、飼いました。
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「じゅ、10代目ぇ…」

期待感満々でオレの答えを待っている山本の視線に耐え切れず、もう一度10代目に助けを求めるような視線を送る。
10代目はオレ達を交互に見られた後、困ったように視線をさ迷わされた。

「え、えーっと…そうだな。とりあえず、連れて帰ってみたらどうかな…」
「えっ?」

まさかそんなことを言われるとは思っていなかったオレは、文字通り目が点になった。
今、何と言われたんだ?連れて帰れって、この気持ち悪い犬を。

「お、お持ち帰りしろ、と…」
「う、うん。確かにちょっと…いやかなり気持ち悪いけど、山本も獄寺君の為を思って言ってくれてるんだしさ…」

果たして本当にそうなのか。
山本を見上げると、いつものへらへらした笑顔を浮かべながらうんうんと頷いている。

「ほら、ツナもそう言ってることだし!」

そう言って馴れ馴れしく肩に手を置いてくる山本に内心今にも殴りかかりたい気分だったが、もう一度10代目の顔を見たオレは渋々頷いた。

「う…じゅ、10代目がおっしゃるなら…」

お願いだからこの変態バカを早く連れて帰ってほしい、10代目の瞳は確かにそう物語っていた。


「…おい。それ以上近づくんじゃねえ」

上機嫌でオレの少し後ろを歩く山本は、今だにあの気持ちの悪いコスプレをしている。
あれだけ取れと言ったのに。「散歩、散歩」とか言い訳して結局このままだ。出来るだけ他人のふりをしたくて歩く速度を速めてはいるものの、歩幅の違いかすぐに追い付かれてしまう。

しかも通りすがりの小学生達に「わんちゃんだー」と指を差されると、鳴きまねをしたりと妙なサービス付き。道行く大人達には白い目で見られ。
ああもう、本当に恥ずかしい奴!

ようやく家に着いて扉を開けたオレは、そのまま無言で勢いよく扉を閉めようとした。が、済んでのところで足を挟んでくる山本。

「えっ、ちょっと!オレも入れてくれよ」
「ああ?犬は外でいいだろが」
「寒い!凍え死んじゃうのな!」
「じゃあ死ね」

しばらく攻防戦が続いたが、山本が無理矢理入って来て、結果変態犬の勝利。思わずダイナマイトで爆破したい衝動に駆られるも、自分の家を破壊する趣味はないので止めておく。

こんな奴、無視だ無視。いない存在として扱おう。だって犬だもんな。
その内飽きて帰るだろ。

山本の存在を完全に無視して手を洗って着替えた後、読みかけだった本を読もうと手に取りベッドに寝転がった。
ここまでの間、大人しくちょこんと床に正座して見守っていたらしいバカ犬。あまりの大人しさに気になってちらっと確認すると、じっとこちらを見つめている。

…あれ?

ごしごしと目を擦って、もう一度山本を見る。何か、オレの目がおかしいのかつけている黒い尻尾が嬉しそうに揺れている。
本物の犬みたい。

あれ?何か頭までおかしくなってきたようだ。さっきまであんなに気持ち悪くて仕方なかったのに、何か…何か。

ちょっと可愛いかも。

「…おい、バカ犬。こっち、来てもいいぞ」

少し寂しそうに見えたバカ犬もとい山本は、オレの言葉にぴくっと反応すると、満面の笑顔で寄って来た。なりきって四つん這いで来るのかと思ったら、普通に二足歩行。

でも何か、やっぱちょっと可愛く見え…。

「って、ぎゃーー!!」

こっち来たと思ったらそのまま覆いかぶさってきたから、思わず叫んでしまった。
訂正。やっぱこんな犬、全っ然可愛くねえ!!



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