Novel

□花嫁志願
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何がってオレがトイレや用事で下に降りる度に、獄寺君が申し訳なさそうに立ちすくんでいるのだ。
そしておずおずとオレの目の前にある物を差し出してくる。

ある時は、オレのお気に入りのGパン。
「すみません!間違って洗濯してしまい、縮んでしまいました!!」
「あーっ!!こ、こんなに細くなってる…」

そしてまたある時は、買ったばかりでまだ数回しか履いていない靴。
「すみません!靴墨を塗っていたら手が滑って10代目の靴の上に…!!」
「うわ!真っ黒じゃんか!!」

もう、うんざりだ。こんなふざけた修業、早く終わらしてほしい。
滅多なことでは怒らないオレも、もはやそろそろ堪忍袋の緒がぶち切れる寸前だった。

そして極め付けは、夕食時の出来事。

「な、何これ…ポイズンクッキング…?」
「すみません、オレが作りました…」

ビアンキは確か今日は用事があるとかで遅くまで出掛けているはず。なのに、オレの目の前にあるのは確かにポイズンクッキング…によく似た料理らしき物体。
まさか、獄寺君にも才能が?

「これ、何作ったの…?」
「一応オムライスなんですが…10代目のお口には合わないと思います。捨ててくださって結構です」

作った本人もわかっているのか、今までにない程ひどく落ち込んでいる。神妙な顔で俯いている彼の姿は何だか可哀相だ。
誰にでも得意不得意の分野はあるし。

「獄寺君、そんなこと言わないで!ツッ君、獄寺君ねツナのために一生懸命作ってくれたのよ。味は美味しいはずだから、食べてみて」
「う、うん…」

勿論言われなくても食べるつもりだった。だけどこの見た目と妙な臭い。思わず吐き気が襲う中、オレは気合いを入れてぱくっと一口口に入れた。

「ど、どうですか10代目…大丈夫ですか」
「……ごふっ!ぐっ…げほ!!」
「じゅっ、10代目!?」

口の中に広がる、何とも言えない味。やばい、死にそう。
真っ赤な顔をしてむせ返るオレに、獄寺君はばたばたと水を持って来てくれようとしたようだった。

「10代目しっかり!今、お水を…!」

パリーン。甲高い音と共に、コップの破片が床に飛び散った。
どうやら手を滑らせたらしい。
勢いよく飛んだ破片の一つがオレの腕に傷をつけ、ツーと血が流れた。

「ご…ごめんなさい!!オレ…」

青冷めて泣きそうな顔になる獄寺君。自分の腕を伝っていく血を見ながら、オレは何故かひどく冷静だった。
すーっと頭の血が下に堕ちていく感じ。



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