Novel
□君とランチタイム
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「それで僕の分も買ってきてくれる?勿論、君の分も買っていい」
「は…?」
「ああ、僕の分は取り置いてもらっているから言ってくれるだけでいいよ」
「いや、ちょちょちょっ…待てって!!」
慌てたように大声を上げる彼。何をそんなに慌てているのやら。
「オレの話聞いてたか!?オレは今から10代目と…!」
「それが何だい、まだ指導は終わってないと言っただろう。昼食なら、ここで済ませたらいい」
「マジで言ってんのかよ…」
そんなこと冗談で言うはずがないがないだろう。というかそもそも、僕は冗談など言わない。
「…はっ、お前馬鹿だな。オレが戻って来ると思ってんのか?この財布だってパクられて終わりだぜ」
「ふん、やれるものならやってみればいい。断言してもいい、君は必ずここへ戻って来る」
彼は僕の言葉に「けっ」などと吐き捨てながら、応接室の扉を乱暴に開けて出て行った。
何故だか知らないけど、彼は必ずここに戻って来るという確信があったのだ。
案の定十分後、遠慮がちに扉が開かれて獄寺隼人が顔を覗かせた。
「やあ。おかえり」
勝ち誇った笑みでそう言うと、彼は罰が悪そうな顔をして財布とパンをこちらに投げてきた。
「ほらよ。遠慮なく使わせてもらったぜ」
「逃げなかったんだね」
「借りはつくりたくなかったからな。そんな大金パクったらシャレになんねえし」
どかっと僕の目の前のソファに座り溜息をついた彼の顔は、何だか不貞腐れている。まあ大方、買おうとしたらポケットの中に65円しかなかったとかそんなところだろう。
それでも、ちゃんと戻って来てくれたことが素直に嬉しかった。…ん?何だ、嬉しいって。
「でもお前、パン派なんだな。何か意外」
「そう?僕は365日毎日パンだよ」
「はあ?」
獄寺隼人が意味がわからないといった顔で聞き返してきたから、自分の言った言葉を心の中で少し反復してみる。
僕、何かおかしなこと言ったっけ。
「お前、米は?」
「米?あんな群れまくりの食べ物、僕が食べる訳ないでしょ」
僕の即答に彼の顔が引きつったのがわかった。あ、何か知らないけどひいてる。
「えっ…じゃあ、麺とかも」
「麺!聞いただけでも虫酸が走るよ。群れてる上に絡みまくって…最悪だね」
吐き捨てるように言ったら、彼は何か可哀相なものを見るような目でこちらを見てきた。
「…ヒバリ。てめえ、何食って生きてんだ」
「パン」
僕の答えに獄寺隼人は、はーっと盛大に溜息をつきながら頭を抱える。さらさらの銀髪が流れ落ちて、綺麗な顔を隠した。
「…何か、お前と話してると疲れる」
「僕もだ。イライラする」
「なっ…じゃあ早く帰しやがれ!!」
本当イライラするよ。
君を見ていると、自分が自分でなくなるみたいで。
気持ちが悪い。
この感情が何なのか、自分でもよくわからないんだ。