Novel

□最強おバカ
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「ンなっ!じゅっ、10代目…!?」
「ねえ、いいでしょ。人助けだと思って」
「お、お言葉ですが10代目…オレ達の歳ではそれが普通だと思うんですが…お、オレだって」

もごもごと言い淀んでいた獄寺君だったが、オレがじっと見つめるとやがて諦めたように目を伏せて呟いた。

「10代目が…お望みとあらば」

「あーごめん。嘘、嘘」
「…はあっ!?」
「どこまでオレの言うこと聞いてくれるのかなって思ってさ」

オレの言葉に信じられないといった様子でぱくぱくと口を開閉させている。
まあ半分本気だったけどね。でも、これでわかった。

「獄寺君は、ボスの言うことなら何でも聞いちゃうんだね」

そう。彼の中でボスの言うことは絶対。何を命令されても絶対に逆らえない。揺るぎない忠誠心。

「じゃあさ、オレがもし"死んで"って言ったらどうするの?」

オレの、一番聞きたかったこと。
答えはわかりきっている。意地悪な質問だとは思うけど。
大好きな10代目の為だったら、君は死ねるんだろ。

しばらくオレをじっと見つめていた獄寺君は、やけにはっきりとした口調で言葉を紡ぎ出した。

「もし、10代目がそれをお望みならば…オレは喜んで死んでみせるでしょう」

ほらね、やっぱり。自分の立場に、自分で自分を嘲笑うように目を伏せた。

「でもそんなこと、考える必要もないと思うんです」
「えっ?」

思いがけない言葉に思わず目を開けると、目の前には獄寺君の眩しい笑顔が視界いっぱいに広がった。

「だって、オレの知ってる10代目は絶対にそんなこと言いませんから」

うわ。それ、反則。
そんなこと言われたら、今までのオレ馬鹿みたいじゃん。
そうだよ。獄寺君に死んでなんてオレが言う訳ないよ。"もし"とかそんなこと、考える必要もないくらい。

「っはーー…もう、獄寺君てば」

馬鹿ばかしくなって思わずしゃがみ込む。急に座り込んだオレを見て、獄寺君が慌て出した。

「10代目!?どうされたんですか、オレ何か変なこと…」
「言ってないよ。オレが悪かったんだ。ごめん」

「帰ろっか」と立ち上がったオレの手を何かが優しく覆った。もう冷たくはない、獄寺君の手。

「手。寒いんでしょう?」
「あ、うん…」

もうそんなに寒くはないし逆にほてっているぐらいだったけど、彼と手を繋ぎたくてそう答えた。

あったかい。さっきまで泣きそうだった獄寺君の表情はもうそこにはなく、あるのは可愛く微笑んでくれる優しい笑み。

獄寺君は、やっぱりバカだ。さっきあんなに酷いこと言った男に、こんなに笑いかけてくれるなんて。自分が情けなくなる。

「ねえ、10代目」
「ん…?」

嬉しそうに口を開いた獄寺君の言葉に、落ち込みかけながらも耳を傾けた。彼はとびっきりの笑顔のオプション付きで。


「オレね、ボスとしての10代目も好きだけど、やっぱり普段の10代目が一番好きです」


ああ、ほら、だって。

やっぱり今日も、オレは君には敵わない。




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