Novel
□犬、飼いました。
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オレは実のところ、無類の動物好きだ。
だってあの純粋な瞳!見てるだけで癒されるだろ。
だがオレは、こんな気持ちの悪い犬を飼った覚えは断じてない。
犬、飼いました。
「じゅっ、10代目!!」
「獄寺君…」
「オレは…オレは一体、どうすればいいんですか!?」
怖い。怖すぎる。
あまりの恐怖にオレは、隣にいらっしゃる10代目に必死で助けを求めた。
だってオレの目の前には、黒い犬の耳と尻尾をつけた山本が笑顔で立っていたのだから。
何故こうなったのか。それは先程の会話にさかのぼる。
「なーなー、獄寺っ」
「…何だよ、野球バカ」
10代目と帰ろうと席を立ったオレに、上機嫌で声をかけてきたのは野球バカの山本。
今日もその顔に呑気なへらへらした笑顔を浮かべている。毎日何がそんなに楽しいのか、オレにはさっぱりだ。
「お前さ、動物好きなんだよなっ」
「…そうだけど」
「飼いたい、って言ってたろ」
「だから何だよ」
下らない会話。時間の無駄だ。
まだ話を続けようとしているようだったから、無視を決め込んでさっさと10代目のお席へと急ぐ。
「10代目っ!帰りましょう」
「あ、獄寺君…」
10代目はまだ荷物をまとめていらっしゃらない様子で、机の上に教科書を開いていた。
「ごめん。今日補習で居残りなんだ」
「そうなんスか…残念です」
家に帰ってもすることがないし、終わられるまで待っていようか。
そんなことを考えていると、何気なくオレの後ろに目をやった10代目が「ひっ!」とか小さな悲鳴のような声を漏らされた。
その表情は、思いっきり引きつっている。
「どうされたんですか、10代…」
つられて振り向いたオレの目に映ったのは、身の毛もよだつような恐ろしい光景だった。
「じゃあさ、獄寺。オレを飼ってみるってのはどうだ?」
ここで冒頭の会話に戻るわけだが。
「すげーいいアイデアだと思うのなっ」
彼はものすごく視力が悪いのだろうか。オレ達がこんなにもあからさまに引いているにも関わらず、特に気にした様子もなく笑顔で話しかけてくる。
目の前の男が怖すぎて思わず10代目の後ろに隠れると、10代目は山本にドン引きしながらも恐る恐る口を開かれた。
「え…あの、山本…。そ、それは一体どうしたの?」
10代目がそれ、と指を差されたのは勿論山本が身につけている犬の耳と尻尾。改めて直視するとますます気持ち悪くて、一瞬見ただけですぐに目を逸らす。
「これか?これは隣のクラスの女子に貰ったのなー。似合いそうだからやるって」
「似合うか?」などと呑気に笑っている山本に、二人揃って全力で首を振り否定。
似合ってない。どれだけ贔屓目に見ても似合っていない。
その女子、今すぐ捜し出して突き返してやりたい。
そもそもこんなでかい男子がこんなんつけて、似合うわけがないのだ。これが10代目だったなら、もっとお可愛らしかったものを。