Novel

□花嫁志願
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「オレ、今救急箱を…!」
「…いいよ」
「で、でも傷口から感染でもしたら…」
「いいから出てって。今すぐ出てけよ!!」

瞬間、獄寺君の瞳が揺れたのがわかった。それが何を意味するのかわからなかった訳ではないけど、もう止められなかった。

「10代、目…?」
「大体、迷惑なんだよ。何が花嫁だよ、馬鹿馬鹿しい!男がなれる訳ないだろ!?」
「…10代」
「しかも家事全然出来ないくせに、いい加減にしろよ!今だってこんなゴミみたいな料理作って、殺す気かよ!!」
「すみませ…」
「それに人には絶対知られたくないとか見られたくないことがあるんだよ!何でわかんないかな。やっぱり、世間知らずのお坊ちゃんにはコミュニケーション能力が欠けてるのかな?」

止まらない。
止められない。
他人の口から言葉が飛び出しているような感覚に陥り、制御出来ない酷い言葉の数々が次々に飛び出していく。

「何が右腕だよ。獄寺君なんかがボスの右腕になんて、一生かかってもなれっこないよ!!」

獄寺君の翡翠色の瞳から、ぼろっと大粒の涙が零れ落ちた。

ああ、オレやってしまった。
気付いた時にはもう遅かった。
健気な彼は必死に唇を噛み締めて、これ以上泣かないように堪えている。

「ご、獄寺く…」
「そ、そうですよね…。すみません…オレ、出て行きます。お邪魔しました」
「待って、獄寺君!!待っ…!」

バタンと玄関の扉が閉まる音がして、リビングに静寂が訪れた。

泣かしてしまった。彼を。
どんなに辛い時でも、獄寺君が泣くことなんてなかったのに。
こんな、オレの言葉だけでそんなにも傷つくなんて。

「こら、ツナっ!!」
「いっ…!?」

頭を思いっきりはたかれて我に返る。見上げると、何時になく怒った顔の母さんが見下ろしていた。
温厚な母さんが人の頭を叩くなんて、相当だ。

「何ぼーっとしてるの!早く追いかけなさい!!」

こんなに怒っている母さんを、今だかつて見たことがあっただろうか。あまりの迫力に圧されて、ろくに返事も出来ずにこくこくと頷き椅子から慌てて立ち上がった。

「獄寺君たら、あの格好のまま飛び出しちゃったんだから!」
「あっ、そういえば…!」

た、大変だ。ややこしいことになった。
あんな格好の獄寺君が外に出たら、大注目を浴びて、その内絡まれて喧嘩になってエプロンが血まみれになるのがオチだ。

早く見つけないと。
オレは靴をひっかけて、慌てて外に飛び出した。



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