復活・長編

□イキシア5
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私の能力は至ってシンプルなものだ。
身体能力を上げる、それだけ。逃げる足を速くしたり、蹴る足の力を強くしたり、人を殴る拳を殺すだけの力に変えたり。私が屋上のドアを蹴破れたのも、武装した集団から逃げられたのも、身一つで反撃に出ようとしたのも、この能力のおかげだ。身体能力を上げる、一見すると便利で使いやすい力だ。実際、子供の頃の私は駆け足で負けなしだったし、高い木に軽々と登って遊んでいたりもしていた。
但し、この能力には欠点がある。どんなに身体能力を上げても、それに体が耐えられないのだ。人間は自分自身を壊さないよう常にリミッターをかけている。スポーツ選手など訓練を積んだ人間や危機的状況に陥った時に発揮する火事場の馬鹿力は、必要最低限の力で100%ではない。私はリミッターに関係なく100%の力を発揮できる(体が駄目になるのでやらないが)
一度だけ何処まで早く走れるか試したことがある。その結果、制御しきれない体は激しい痛みと共に黒い蔦に蝕まれた。

そうだ、その時だ。全身を焼くような強烈な痛みに気絶することすら出来ない中で、手を差し伸べてくれたあの人。

『あなた自身の心で自分を守ってください』

そう言って持たせてくれたあの指輪。真っ白で光の加減で七色に光るその石は、白い炎を灯す。力を使うような事があってもこの石がそれを抑えてくれる。全てを包み込む微笑みは覚えていても、その顔を今でも思い出せない。

『珍しいものを持っておるな小娘』

タルボさんに会ったのは…誰だったか、とにかく逃げていた時だ。
蔦は手首から上腕へ、そして首から顔に。そんな状態の私に驚きもせず、老人が目を惹かれたのは私が首から下げていた指輪だった。埋め込まれた石は半分ほど黒く染まっていた。

『その指輪、わしが作り直してやろう』
『T世の代から彫金師をしているわしも、こんなものは初めてみるぞ』

それ以来、タルボさんには会っていない。その後からこの時代に来るまで、その石が穢れることはなかったのだ。





「炎を出したら、次はお前がやっていた全身のコーティングだ」

左手中指にはめた雨のリングは青い炎を灯している。腕組みをして仁王立ちのラルは、さぁやれと促す。しかし炎を全身にまとわせるとは…炙ればいいのか?ふん、と力を込めてみるものの炎は少し強くなるだけで、自由自在に操れることは出来なかった。ラルの怒声を覚悟したが、当の本人は「やはりな」と呟く。

「炎を全身に纏わせることは修行次第だろう。だが、それを常に維持するのは難しい。それが戦闘中なら尚更だ。いずれ炎は枯渇する」
「なら、この時代の私はどうやって…」
「匣だろう。あまり出回ってない蓄積するタイプの匣だが…ヒバリから貰ったものはリングだけか?」
「うん、このリング1つだけ」

困った、とラルは眉尻を下げた。リングの炎で開けられる匣は限られている。大空の炎以外で、自分の属性と異なった匣は開けられない。かと言って山本の匣を借りるわけにもいかず。

「…仕方ない。今は炎を全身に纏わせ、より長く維持できるよう修行するしかないな」

専用の匣がない以上、今はより多く長く、そして純度の高い炎を生成できるようにならなければ。地道ではあるが、自分の命とこれからの戦いのために。




「あれ、ミョウジ先輩も休憩っスか?」
「んー、ちょっと行き詰まっちゃってねー」

喉の渇きを満たしにキッチンへ向かうと、そこには山本がお茶を啜って座っていた。すぐに私のお茶の用意をしながら、お互い大変だなーと軽く言葉を交わす。

「じゃあ、10年後の先輩が匣全部持ったまま入れ替わったってことっスかねー…」
「多分なー。雲雀がわざわざ隠してるとも思えないし」
「だったら、ヒバリに聞きに行けば良いじゃねーか」
「うわっビックリした!」

温かいお茶を啜ってぐだーとテーブルに身を委ねて話していると、突如として目の前に現れたリボーンに声を上げて飛び起きた。山本は慣れているようで、片手を上げてニカッと笑みを返す。

「確かに、それが一番確実だな!ヒバリは何か知ってるっぽいし」
「そうだぞ。お前のリングもヒバリが持ってたんだ。匣のことも何か知ってるかもしれねーぞ」
「えーどうかなー…追い返されそうだけど」
「オレが思うにヒバリは先輩を嫌ってるわけじゃないと思うぜ!」

大丈夫!と親指を上げて言う眩しい笑顔を否定することもできず、首を捻る。そこでリボーンが山本と同じようにビシッと親指を上げて高らかに言う。

「当たって砕けろ!」
「え、それ死ぬじゃん」





私は今、ボンゴレアジトと雲雀のアジトの境界線にいる。
雲雀がツナと修行をしに出てきた時に聞こうと思っていたのだが、そんな悠長な時間はないとリボーンに蹴り出され此処にいる。許可なしでは入れないという群れるのを嫌う雲雀らしい考えだが、それなら尚更許可を取らないと!なんて言い分はリボーンに叩き潰された。

「勝手に入ったら殺されるんじゃないか…」

最悪の結末しか浮かばない頭を叩いて、私はその領域に足を踏み入れた。






2016.9.26

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