復活・長編

□イキシア4
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「話にならん!!貴様それでもやる気があるのか!!」
「すみませ、いでっ!」

バシンと容赦なく私の頭を叩くラルの怒声が室内に響いた。本日何度目か分からぬ罵声と頭の痛みに涙目になりながらも、左手の中指にはめた雨のリングに気を集中させる。……何も起こらない。気合が足りん!!とラルの怒声が頭上から降ってきた。
死ぬ気の炎。10年後の未来ではこの炎を使って武器を強化したり、幻覚を作ったりとしているらしい。ボンゴレに伝わる死ぬ気の炎はツナの使う『大空の炎』。私が使うはずの炎は『雨』。これは山本と一緒の属性だ。他に『嵐』『雲』『晴』『雷』『霧』と全部で7つの属性があり、それぞれにその炎が持つ性質が存在する。

「ハァ…お前に割いてる時間はないんだ。炎が出るまで自主練をしていろ」
「はい…」
「お前の覚悟を見せろ。でなければ死ぬだけだ」

微動だにしない私のリングを一瞥して叱咤するラルは、ツナの修行を見にいくと修行部屋を去っていった。広い室内が静まり返る。死ぬ気の炎が覚悟の強さ、とラルは言った。覚悟と言われても、何を覚悟すればいいのか。これから始まる戦いのために?私を蝕む力を抑えるために?どれもしっくり来なかった。やる気がないわけではないのだが。

「誰かーヒントくれー」

嘆く声は室内に木霊するだけだった。





「ミョウジさん、修行の方…どうですか?」
「全然ダメです…」

今日の修行を終えたツナ、獄寺、山本に加えて、ランボとイーピン、食後のお茶を用意するハルと京子が集まったキッチンでツナがおずおずと問いかけた。私はゴツンとテーブルに額を突っ伏して弱々しく答える。

「覚悟が足りねーんだよ、ラル・ミルチもそう言ってたんだろーが」
「まぁまぁ。先輩はここに来て日も浅いし、焦ることないって」
「山本グッジョブ、獄寺ギルティ」
「ハァ!?何だとテメー!!」
「ご、獄寺くん落ち着いて!」

テーブルを叩いて勢いよく立ち上がる獄寺をツナと山本が宥める。3人とも全身すり傷や切り傷だらけだ。やれやれー!と獄寺を煽るランボを止めるイーピン、何事かと心配げなハルと京子。騒がしいキッチンは外の状況が嘘のように平和だった。

「覚悟と言われても感覚的すぎて分からないんだよーヒントくれよー」
「オレはいつでも十代目のお力になれる覚悟ですよ!!」
「う、うん、ありがとう獄寺くん…」

忠犬の耳と尻尾が見えるような獄寺の言葉にツナは乾いた声で返す。

「オレはあれだなー。こう炎をひゅっとばーんで、ずばーって感じだぜ」
「ごめん良く分からない」

山本の実力は認めるが、この表現方法だけは理解できない。テーブルから顔を上げて頬杖をつきながら、うーんと頭を悩ませる。まずは炎を出さなければアドバイスも何もできないのだ。炎は自分自身でしか発現させられない。

「ツナは炎を灯した時、どんな感じだった?」
「えーっと何ていうか…このままじゃダメだと思って…こんな危険な所、一刻も早く抜けださないと。それが入江正一を倒すことなら、オレは強くならないと…って」

私の質問におどおどしながらも瞳に宿る覚悟が見て取れた。ツナの強さの根源は、仲間や家族を、好きな人を守りたいというものだ。単純で真っ直ぐなツナらしい答えだ。それに比べて私はどうだろう。こんな世界早く何とかしたいし、無関係のハル達を危険な目に合わせたくはない。…が、それは根本的な覚悟ではない気がした。遠い意識に別の何か、私がすべきことがある。

「明日、ツナの修行を見てみたらどうだ?ヒントがあるかもしんねーぞ」
「リボーン!お前急に現れるなって…」

ひょっこりと現れたリボーンにツナが驚く横で、私はそれもいいなと頷いた。脈絡のない蹴りをツナに食らわせたリボーンはまた不敵に笑うのだった。





「動きが雑だよ、沢田綱吉」
「うぐっ…くそ…もう一度だ…!」

以前見たスピードよりも格段に速く動くツナの懐にトンファーを打ち込んだ雲雀が冷たく言う。壁にめり込まんばかりに吹っ飛ばされたツナは、傷だらけの体を起こしてオレンジ色の澄んだ炎で立ち向かう。

「毎日こんなことを?」
「そうだ。戦闘に関してヒバリの右に出る者はいないからな。短い期間で強くなるには、荒っぽいやり方だが確実だ」

腕を組んで2人の戦闘を見るラルが言った。なるほど、それは確かに。雲雀は中学生の時点で、才ある大人をも上回るほどの力があった。10年経てば勝てる人間はないに等しいだろう。それに彼は手加減なんてものは一切しない。それが限られた時間で成長するための強みになるのだ。

「そういえば、ツナのグローブが変わったような…」
「ああ、ボンゴレリングを合わせた新しい]グローブ。あれが沢田の覚悟だ」

そう答えるラルの口元は嬉しそうに笑っていた。その横顔を見つめてツナと雲雀に視線を戻す。何度も立ち向かうツナ、その不屈さが楽しそうな雲雀。ああ分からない。自分のために使ってきた『力』を、自分のために蝕んでいく『力』を、私はどう使えばいいのか。
その後、山本や獄寺の修行を見学したが答えは得られなかった。





「はぁ…あー…駄目だなぁ…」

お風呂から自室への帰り道、盛大な溜息をついて私は呟いた。それぞれの修行を見せてもらった後、自主練をしたが炎は灯らないまま。覚悟云々の前に才能ないんじゃないか?と諦めかけた時、前方からリボーンが現れた。

「苦戦してるみてーだな、ナマエ」
「んー、覚悟ないんだねー私は」

空笑いしつつ頭を掻いて言う。リボーンはしばし私を見上げた後、真っ直ぐな瞳で静かに言うのだ。問いかけるリボーン自身でさえ疑問に思っているような、それは私が欲しかった答えを導く最大のヒントだった。

「お前の覚悟はそこにあるのか?」



その夜、真っ暗な自室で青く揺らめく炎が私の顔を照らした。

『私はわたしの全てのために』





2016.9.25

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