鳴門・長編

□3.夢のような現実
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「こんにちは。うずまきナルトくん」
「うわっ!だ、誰だお前!」

ぴょーんと直立に飛び跳ねて驚くナルトに思わず吹き出して笑ってしまった。背後の私に振り返り、目を真丸く見開いたナルトの額には、イルカ先生から貰った木の葉の額宛てが光っていた。

「怪しいもんじゃないよー」
「それは怪しすぎるってばよ!!」

ビシッと指差して最もなツッコミを入れられて、苦笑いした。そりゃいきなり狐の面をつけた奴が背後に現れたらビックリするわな。因みに狐面は商店街で購入。色々な動物の面があったけど、やっぱり狐が一番格好良かったので。暗部っぽいし、これ重要。

「…オレに何か用?」

怪しい怪しい、と警戒心丸出しながらも好奇心も湧いてか、上目遣いで此方を伺うナルト可愛いまじ可愛い。面の下でにんまりと笑って、その綺麗な金髪をわしゃわしゃと撫でた。うわ、ふかふかする!

「わっ…な、何なんだってばよ!?」
「いやついね、ついつい可愛くてね!ちょっと抱き締めていい?」

私の手をパシッと払って後退するナルトの顔はほんのり朱くて、その反応があまりにも初々しく可愛くて、両手をわきわきと動かしながら近付く。今の私の顔、多分変態のそれに違いない。挙動不審な奴を前に、更に警戒心を露わにするナルトは困ったように眉を下げた。

「もう何なんだお前!オレを馬鹿にしてんのか!」

ムキーッと歯を剥き出しに威嚇してくる何この子可愛いなオイ。クールキャラで通そうと思ったのに、と湧き上がる衝動を押さえつつ、私は両手を下げて首を横に振った。

「驚かせてごめん。少し話したかっただけ」

話ィ?と首を傾げるナルトは隙だらけだった。下忍ってこんな感じなのか。私が冷静を取り戻したと判断すると直ぐに警戒を解いて、見定めるように視線を泳がせている。本当にただ一言でも話してみたかっただけだった。どんな反応をされるかと不安もあったけど、ナルトはナルトのままだった。先を知ってるだけに、少し罪悪感が湧く。

「話ついでに一楽のラーメンでもどう?奢るよ?」
「一楽!本当かっ…いや!オレそんなんでつられねーし!」

ぱっと目を輝かせるが、怪しい奴に奢られる程ナルトも馬鹿ではなく、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。そわそわと落ち着きない様子から見ると、あと一押しで釣れるとみた。私は僅かに聞こえる程度の声で囁く。

「…今ならチャーシューもメンマもなるとも麺も大盛り大サービスなんだけどなぁ…」







「ねーちゃんも忍者なのかァ?全然気付かなかったってばよ」

味噌ラーメンチャーシュー大盛りを啜りながら、問いかけられた質問に首を傾げる。確かに真後ろに立っても気付く様子はなかったな。やはり忍者なりたてだからだろうか。

「残念ながら忍者じゃないんだねー。なりたいとは思うけど」

普通盛りの味噌ラーメンを面を少しずらして啜りながら答える。せっかくだから私も忍者になりたい。が、忍術どころか体術の欠片さえも私にはできない。この世界に来て、チャクラを練ってみようと踏ん張ったがとくに変化はなかった。アカデミー入学の年齢ではないし、一体誰に教えて貰えばいいというのか。せめて屋根とか木の間を駆け抜けてみたい。

「フーン。じゃあ、何で面してるんだ?食べにくくねー?」
「え、まぁ…頑張れば何とかなる」
「…外さねーの?」

期待の眼差しで見つめてくるナルトから、思わず視線を逸らした。そんな目で見られても取らないぞ…取ったらニヤけ顔がやばい!「いつかね」と頭を軽く撫でて、ラーメンの続きを楽しむ。「ちぇっ」と残念そうなナルトの丼にチャーシューを入れたら、満面の笑顔を向けられて私も口元が緩んでしまった。ああもう可愛いな!







「ふーっ、食ったってばよー」
「…そりゃ大盛り3杯食えばな…」

ぱんぱんに膨らんだお腹を擦り、ナルトは満足げに声を漏らす。思わぬ出費に私の財布は泣いていた。いや、これもナルトのためと思えば…!

「全然知らねーのにありがとな!今度お礼するってばよ!」

親指を上げてニッとはにかむナルトの頭に手を伸ばす。何をされるか分かっているのか、へへっと照れ臭そうに笑って私の手を受け入れる。頭撫でるの癖になりそう。

「じゃ、またねナルト」
「え、もう帰っちゃうのか?」
「良い子は帰る時間だぞー」
「えー、つまんねーの」

夕日が沈みかけ影が落ちてきた。公園で遊んでいた子供たちを親が迎えにくる様子を横目見て、ふて腐れたように頬を膨らますナルトの頭を軽く叩く。最初こそ警戒していたのに、今ではすっかり気が緩んでいる。こっちから話しかけといてなんだが、少し心配になる。

「またな、面のねーちゃん!」

ニッと笑顔を浮かべ手を振りながらナルトは駆けて行った。軽快な足取りで去っていく背中を見送って、ふーっと息を吐く。自分が思っていた以上に緊張してしまった。突然息苦しさを感じて、やっと面を外し、息を吸った。汗ばんだ顔に当たる風がひんやりとして気持ちいい。ナルトの髪の毛、意外とふわふわしてたな…。次は抱き締めてもいいかな、いいよね。
帰路につきながら何度も何度もナルトを思い出し、ほくそ笑む。転がっていた小石を軽く蹴り転がして、目を閉じればナルトの笑顔ばかりが浮かんで、じわりと涙が込み上げた。この数年先にどうなるかと考えて、漫画なのに、と自嘲した。

もうそろそろナルト達は、人生初のAランク任務で、初めての強敵に出会う。



2014.3.29
 

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