ハコニワノカケラ

□さよなら
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a bientot
- Li Dian -




指先に吐き掛けた息は白く、見上げれば深い藍へ染まった空にひらりひらりと風花が舞っている。
(どうりで寒いわけだ…)

「雪…」

この日、合肥の地に今年初めての雪が降った。
もう目の前に迫った冬の訪れを告げる使者は、音もなく静かにこの地へ舞い降りる。そんな空をただ見上げていた。
(荊州にも…あの人の上にもこの雪は降っているのだろうか)
もう一度指先に息を吐き掛ける。
その人の大きな掌はいつも包み込むようにして凍える指先を温めてくれた。
強引に手を取り息を吐き掛ける横顔は少し赤くなっていて、不機嫌な表情をしているのは照れ隠しに間違いない。不器用で優しいその人は、雪が降るといつもそうやって温めてくれた。
雪は幸せな記憶を呼び起こす。

「…寒いです」

また指先に息を吐き掛けてみた。でも、思ったほど温かくはならない。

「…早く温めて下さらないと、李典は凍えちゃいますよ」

夕闇の空を舞っていた風花はいつの間にか本降りに変わっていた。
(この雪を見たあの人は、私を思い出してくれるのでしょうか…)
静かに白で覆われてゆく景色を見ながら、その中に居るはずもない人の姿を探す。
(貴方に会いたい…)
雪に混じって涙が一雫、掌の上に落ちた。

冉in

『a bientot-サヨナラ、シバシノオワカレヲ-』
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