メ イ ン

□お茶しませんか?
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「ツーナッ!今暇か?」

ノックもせずに扉を開けて入ってきたのは山本。
いつもいつもノックしろって獄寺君に怒られるのに、相変わらず直らない。
俺自身は気にしていないから良いんだけれど。

「うんヒ……マではないけど、どうしたの?」

危ない危ない。
迂闊なことを言うとあの家庭教師がどこで聞いているのかが分からない。
慌てて取り繕うと、山本もここ10年でそれを学んだらしく面白そうに笑った。
他人事だと思って、全く。

「じゃーん!なんだと思う!?」

そんな俺を置いて、山本が得意げに目の前に出したのは、小さな風呂敷包みだった。
まるで弁当箱でも包んでいるかのような。
あぁ、そういえば見覚えがある。
昔学生だったころ、山本はそれに弁当箱を包んできていた気がする。

「お弁当?」

捻りも何も無いが、それ以外に予想がつかなかった。

「当たり」

良かった、捻りがないのは俺だけじゃなかったか。
それにしても、なんだろう、差し入れかな?
まさか、自慢?
獄寺君がお弁当を作ってくれたんだ、とか?

「それで?」

忘れていたが、山本のこのニコニコとした笑みは侮れない。
明らかに何か裏がありそうだ。
訝しんでます!と言う表情を隠しもしないで聞けば。
山本の笑みがニヤリと、あぁもう確実に良くない方向へと進んでいった。

「まぁまぁ、これな、ツナに差し入れ。中身、寿司」
「え!寿司?」
「そう、ついでに日本茶も」

さらに取り出した水筒。
寿司に日本茶か。
山本め、一体どこからこの情報得たんだ。
俺が最近日本食に飢えているということを。
大体読めてきた。
これはつまり。

「…賄賂?」
「ははっ」

否定しないし。
この山本が持ってきた寿司ならば、鮮度も味もきっと抜群だろう。
正直、食べたい。
けれどどんな要求が来るか、分かったものじゃない。
この10年、山本の神経はかなり図太くなった。
賄賂なんて良くない手段を覚えたし、裏工作にも頭が回るようになってきた。
俺はそれに何度引っ掛かったことか。
『人の良い山本』―――それはもう過去のことだ。
この笑顔に騙されて、かなり痛い目を見たぞ。
注意するにしても、別に本当に悪いことをするわけでも実際に人を傷つけるわけでもない。
ただ、心が痛い。
精神を蝕まれる。
人のノロケってこんなにも辛いんだ、って俺は山本と一緒にいて初めて知った。
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