メ イ ン

□ヒットマン山本
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山本はよく、俺の体の一部が欲しいと言ってくる。
それは時に眼球だったり、唇だったり、髪の毛だったり、指先だったりさまざまだ。
冗談程度に聞き流していたが、ある日馬乗りになって俺の目に指を伸ばしてきた山本を見たときは、さすがに俺も武器を片手に応戦した。
厄介なのは、こいつのこの行為が悪気があってやっているのではないということだ。
俺たちはまだ学生で、一緒に住んでいるわけでもない。
24時間一緒にいることなんて不可能だ。
いや、俺と山本と言う別々の個体である限り、24時間一緒にいることなんて物理的に不可能だ。
だが山本は、ずっと一緒にいたいと言う。
けれどそれが無理だということを分かっているから、俺の体を一部を、そのまま肌身離さず持っていたいと。






「あのな、前に言っただろ。血が通わなくなった目は汚くなるだけだぞ」
「う……、覚えてるけど」
「爪だって茶色くなるし、唇だって血が通ってるから赤いんだ。例えホルマリンに漬けたってなぁ、理科室の標本見ればどうなるか分かるだろ」

この話を一体何度しただろうか。
いい加減山本だって覚えてるはずだ。
俺だって、山本が簡単に忘れてるとは思ってない。
ただこいつは、分かっていても『欲しい』と言うその衝動を抑えきれないんだ。

「分かってる…、分かってるよ」

まだ血が滲んでいる指を、山本の手でそっと包まれた。

「ごめん」

血を見ながら申し訳なさそうに言われた。
しかし、どう見ても名残惜しそうな表情も残していた。
本当のことを言えば、恐いんだよ。
いつかお前に殺されてしまいそうで。

「あのな、見たくなったり触りたくなったら、会いに来れば良いだろ。お前が言うんなら、あ、会いに行ってやっても、良い…し」
「うん、ありがとな」

こんなこと言うのは柄じゃないのに。
しかも、もしかしたら俺を殺すかもしれない男に対してなんて。
けれどもう、今更離れることなんて出来ない。
それほどまでにこいつは俺の中に深く入り込んでいる。
諦めて一緒にいるしかないのなら。
今のうちに遺言でも書いておいた方がいいのかもしれない。


END


あとがき
腹黒い山本も白い山本も両方好きです。
2008.10.4
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