リク

□HANABI
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寄港したのは秋島だった。


「ゾーロ」


停泊した港を船縁から見ていると下から声が掛かる。その声はこの船のクルーのものでは無く。だけど耳に馴染んだもの。
呼ばれた方を見れば見当通りの人物がいて。


「おーい」


晴れやかに笑いながらこっちに手を振っている。
まるで待ち構えていたかのようなそのタイミングの良さに少し眉間に皺が寄った。





》HANABI





「ここ通るだろうって思って待ってたんだけど良かった」


弾むような口調で言われたのは予想通りの答え。


「でも間に合うかどうか分かんなくて正直かなり焦ったぜ」


続けてエースから向けられたのは少し困ったような笑顔。
眉を少々下げたそのそばかす顔は数週間ぶりに見るもので。


「そーかよ」


ぶっきらぼうに答えながらも半ば無理矢理船から連れ出された不機嫌さは薄れていった。
その間も足は街の中心に向かっていく。
辺りはもう殆ど暗くなっていた。
まぁ元々この島に着いたのが夕方も近く。
しかも秋島ということで降り立った頃には闇があっという間に目の前に忍び寄って来ていた。
先を行く黒髪が秋風特有の少し肌寒い風に靡いている。


「時間までもうすぐだし急ごうぜ」


急かす言葉と一緒に僅かに早足になる。
人で溢れた道。
そこを縫うように前に進む。
何があるのかと聞きたいがそれもままならないまま黙ってついていく。

ふと目線を下げればしっかりと握られた自分の手が目に入った。
久しぶりに触れた相手の手の感触。
それに自分としては気付きたくは無かったが僅かに心が弾んだ。


「……」


気付かれないように少しだけ握る力を強くする。
ほんのちょっとのそれ。
だけど…


「ん?どうかしたゾロ?」


途端に変わらない笑顔で振り返られたからたちまち顔が熱くなる。


「な、何でもねぇよ」


赤面した事を悟られたくなくて慌てて顔を俯けた。
すると前からふーんという声が聞こえて。
ふわりと。
何も言わずに頭を撫でられる。


「狽ネ、エース!」

「ほら行こっ」


その行為に慌てて顔を上げれば可笑しそうな、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべた相手に手を引っ張られた。


「っ…」


止まりかけていた足をまた動かす。
賑やかな繁華街。
その間言葉を交じ合わす事も無く。
でも手はしっかりと繋いだままただ街の中心に向かって行けば。


「あ…」


思わず声が漏れた。
前方には明るい光を点した出店が道を挟むようにして所狭しと並んでいる。


「祭り、か?」


無意識に独り言のように呟く。


「いや、ちょっと違うかな」


それに返って来たのは訳知り声の否定の言葉で。
じゃあ何だ?と訝しみながらエースの顔を見るとカチリと黒い瞳とかち合った。
すると併せた相手の目はワクワクと楽しみに揺れていて。
どこか子供のようなその瞳に自分の船の船長を思い出して、あぁ兄弟だな、と改めて思った。


「花火があるんだってさ」


ウキウキとした目が告げる。
その言葉に一瞬驚いた。


「花火?‥秋島なのにか?」

「そ。秋島なのにね」


思ったまま口から出た疑問に返って来たのははっきりとした嬉しそうな返事。
待ち切れないという気持ちがその声でありありと分かって小さく苦笑してしまう。
その間も人を誘う出店の明かりに照らされた薄暗い道を二人で歩く。


「一年に一度。今日だけ上げるらしいぜ」


ガヤガヤとますます多くなった人の波。
秋の気候の中、浴衣やら仁平やらを来た人間が目立つ。
皆これから始まるイベントに心弾ませているようで、どの顔も楽しそうに笑っていた。


「だから見たかったんだ!」


辺りの様子に思わず見入っているとそうちょっと大きな声が耳に入って来た。


「あ?」


人だかりの中、少しうるさい周りに聞き返す声も知らず同じように大きくなった。
それにニッと笑うエース。
だがこっちの問いには答えないまま一言着いたぜ、と嬉しそうに告げてきた。


「ここか?」

「あぁ。無事到着」


間に合った〜とエースが安堵する。
どうやら気付いてなかったが、いつの間にか目的地の街の中心に来ていたらしい。
ぐるりと辺りを見渡す。
公園のような開けた場所だった。
白い煉瓦で舗装された地面が綺麗な円を大きく描いている。
そしてその中央には小さな噴水があった。
その中心から溢れる水が周りの光に反射してキラキラと夜の闇に踊っていて。
思わず見取れた。


「ゾロ」


すると突然ギュッと繋いだ手を握る力が強くなった。
並んで立っている相手の顔を見遣る。
見つめた先、闇色の瞳が噴水の水と同じように光を反射していた。
綺麗だな、と素直に思ってしまう。
そして、何だ?と尋ねようとしたがそれより早くエースが口を開いた。


「ゾロと一緒に見たかったんだ」


はにかむような笑顔。
照れ臭そうなその表情に珍しいものを見た気がして自然と目が丸くなる。
不思議に思いながら何を?と出て来かかった問い掛けはまたさっきと同じように口から出る事は無く。代わりに…


「あ」


ドーンという音で答えを出される。


「始まったぜゾロ!」


急に横から現れた赤い華。
一瞬で咲いて、瞬く間に消えていく。


ドーン


すると赤いそれが消えた側から今度は黄色い華が咲いた。
その華に続くようにまた別の色の華が咲き誇る。


「……」

「……」


その様を暫くお互いに黙って見入った。
儚い光の華々を自分達の目に焼き付ける。


「ゾロと一緒に見たかったんだ」


不意に再度繰り返された言葉。


「ゾロと一緒にこんな風に花火を凄く見たかった」


三度目のそれにエースを見れば穏やかな表情が迎えていた。
だから黙ったまま次の言葉を待つ。


「この花火を見た恋人達は一生離れないんだってさ」


そういう言い伝えらしいと笑う相手。
そっと肩が触れる。
並んで立っていた距離が少しだけ縮まったのが分かった。


「永遠なんて言葉、ホントに信じてる訳じゃねぇけどさ。やっぱしそーゆーのって惹かれるじゃん?」


苦笑気味に続いた台詞。


「アホか」


少しだけ呆れた。
目線を上に戻せばその間も夜空には大輪の華が咲き続けている。
誰もがそれに見取れて空を見上げていた。


「アホでも良いよ。ゾロと一生居れるなら構いやしないさ」

「はぁ?」


珍しい真摯な声に上げていた顔をまたエースに向けた。


「っ!」


相手はこっちをじっと見ていた。花火では無く自分を。
そして向けられた瞳には僅かな熱が孕んでいて驚いてしまう。
そのまま近付いてくるエースの顔。


「狽ホ、馬鹿!周り人だらけだろーが!」


それに相手が何をする気か気付いて慌てて周囲を伺いながら身体を退こうとしたが。いかんせん、辺りは人だかりで動くことも出来なくて。


「大丈夫だって。…皆花火に夢中だから」


俺はアンタに夢中だけどね、と甘さを含んだ言葉に断固拒否するつもりでキッと睨み付けた。
だけど…


「!」


見遣った先の瞳が余りにも真剣で。
ドキリと跳ねる心臓。


「っ…」


じっとその瞳のまま見つめ続けられると不覚にも殴ってでも止めさせようと思っていた意気込みが段々と萎んでいく。
その間もせわしない心音。
そうして…


「一生俺の側に居て」


―――愛してる


結局はそう囁かれたらもうどうにも出来なくて。


「…ゾロ」


塞ぐ寸前、甘く呼ばれた声音に急激に体温が上がるのを感じながら。


「…んっ‥」


後ろからきゃっと小さな女の声が聞こえた気がしたが、構わずに静かに唇を重ねた。


ヒュー…


ドーン――


また一つ光の華が秋の夜空を彩った。





-END-

書き終わってみれば押されっぱなしのゾロでした。
まぁ最初書いたやつは余りにも乙女過ぎて気持ち悪く没にしたんですが、これも中々乙女に…(ダメじゃん)
そしてネタは秋に花火。私のとこは今年は見れそうです(それで思い付いたんだけどね/笑)
取り敢えずまだまだ文面がぐちゃぐちゃで修業が足りないのを痛感しました。

如何でしょうか?返品可です。
 

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