小説置場

□準備はOK?
1ページ/1ページ

「ゾーロちゃんvVvV元気?」


呼び掛けに今の今までパラソル下で寝てた当人は片目だけ開けて不機嫌な顔を返す。
それを横目で見ながら肩を竦めた。


そんな顔したって無駄よ。
相手が誰だか分かってるのにすぐに呼ばれた方に顔向けちゃう程気になってるくせに。
だからかしら?
大事なものを奪いそうな人間の一人だと判っているから自然と思っちゃうのよね。


また来た、て。




準備はOK?




「好き」

「うぜぇ」

「愛してるって」

「冗談はいい加減にしろ」

「冗談じゃねぇよ。アンタの事しか考えらんねぇの」

「俺は俺の事しか考えてねぇ」

「だーかーら!アンタが俺には必要なんだよ!!!」

「生憎俺は自分の事で手一杯だ。テメェの事はテメェで何とかしろ」


無意味と思えるくらい平行線な会話が続く。
声の方から見受けられるのは緑髪の後ろを黒髪が後を追うという一見したら奇妙な光景。
でも見慣れた者達にとってはさしずめ猫が飼い主の後をついて行くような図で。


「………毎回毎回。今日はあの押し問答、いつまで続ける気かしら?」

「さぁ。俺にはあんな筋肉マリモのどこが良いんだかさっぱり分かりませんからね」


パラソルの下でナミが日光浴をしながら執事と化したサンジに尋ねたところの答えはそんな素っ気ないもの。


「ふ〜ん」


無冠量に返しながらもこっそりと溜め息を付く。
あから様に不機嫌な声とぎこちない笑みを向けられて話される言葉では説得力なんてカケラも無い。


全くココにたむろう男どもときたら。
こーんな側に美女が居るってのにそれを完全に無視しちゃって嫌になっちゃう。


傍らのオレンジティーを飲みながらナミは内心で愚痴ってみたり。


「ところであの人の弟はどこなの?」

「アッチで渡された囮用の餌食うのに夢中になってますね」

「あっそ」


苦虫を噛み潰したみたいな表情で甲板を指差すサンジに今度は隠す事なく盛大な溜め息を付いた。


あーあ、これで止めに入る候補が一人減っちゃった。
ったく、一応船長なんだから自分のとこのクルーのいざこざぐらい何とかして欲しいわ。特にその相手が自分の身内なら尚更なんだけど。


「ロビンもチョッパーと話してるみたいだし」


他に役に立ちそうな人物を見てみるけれど、その相手は突然の来訪者にも関わらず、以前から何度か遭遇している事だから興味を惹かれなくなったらしい。暫く眺めた後またお隣りのトナカイと二人で分厚い本を真ん中に楽しく話し込んでいる。途中この船の中で良識を持ち合わせているであろう最後の人間として挙がったウソップも伺ってはみたけれど、彼の場合は最初から我関せずの姿勢で釣りに専念しているし。


「フー…仕方ないわね」


三度目の溜息と共にトンと一口口を付けたカップを側のテーブルに置いた。


「サンジ君」

「はいvVvV」


もう既に条件反射となっているのだろう、女性に対するサンジ特有の返事の反応に苦笑しつつナミは手中にある読み掛けの本のページをめくった。


「アタシからの『お願い』にしといてあげるからアレ止めて来てくれない?」


そうしてチラリと目だけ相手の方に向けて、良い逃れ蓑となるだろう命を与える。


「は?」


含まれた意味を察したのだろう。
驚き過ぎてキョトンとした顔が笑えた。


馬鹿ね。知ってるのよ?
さっきから後ろ手に組んでる指が時々ピクピクと不自然に動いてるの。
ホントに素直じゃないんだから。


「お姫様の救出大至急よろしくね、ナイトさん」


ヒラヒラと手を振りながらさっさと行くように示す。


「へっ!!?ナミさん違っ…Σあっ、は、はい!!!」


一瞬酷く慌てたように弁解しようと変な声を出す相手。それに早くと一睨みして見せればサンジは顔色を変えて速効で駆け出した。
相手の躊躇った姿に瞬間イラっとしたけれど、この場でいつまでも不甲斐無い言い訳をグダグダと続けられるよりはマシだと無理矢理腹の底に押し込めて我慢する。


早く止めに行きたかったのならそうすれば良いのに。全くうちのコックったら夜はあんなに大胆に迫ってこっぴどく追い返されるくせに人前だと馬鹿みたいに及び腰になるんだから。
花形役の出番を譲ってやろうって身にもなりなさい。


「コラ止めろってエース!!!!!」

「やーだ。照れちゃってかっわい〜vVvV」


動揺したゾロの声。
それとは正反対に懲りずに迫る嬉しそうな相手の声と重なるように大きな音がする。


あーあ、ほら早くしないから押し倒されてんじゃないの。
ねぇサンジ君判ってる?
アイツはね、きっと早い者勝ちよ。
アンタの恋してる相手は色恋沙汰にはすっごい疎くて無頓着なんだから。誰に対しても押されたら流されちゃうってタイプなのよ?
特に…


「おいコラ!エース、テメェゾロに何してんだ!」

「…二人ともそれぞれに気にはなってるみたいだし」


下された命令を果たすべく大声を上げながらやっと二人の間に割り込んだ黄色い頭を見遣りつつ一人呟く。そして再度口を開こうとした時。


「どっちもなんて欲張りな人よね」

「Σえっ!?」


自分の口から零れ出す筈だった言葉が背後から聞こえた。


「…っ!ロビン!!!??」


いつの間に近くに来ていたのか。
思いも寄らないところで返って来たそれに急いで後ろを振り返るナミ。するとそこには先程まで確かにチョッパーと話していた筈のロビンが微笑みかけていて。


「剣士さんたら羨ましい限りね。人の心を簡単に掠っていくの」


そして日陰を作るパラソルの下にいるくせになぜか眩しそうに目を細めてロビンは騒ぎ出した方向を見つめる。


「……ホントに、ね」


その仕種にナミは自然と苦笑を返していた。


だって分かってしまったから。
彼女の中。
きっと芽生えかけたまま止まってしまっている想いが有る事を。同じように隠し持っている私は――だから気付いちゃったみたい。


「全くお姫様は罪作りよ」


言った後自分の口元が歪んでしまう。


ねぇゾロ。
後悔は先に出来ないのよ。
先にアンタやその周りの想いを知ったら…
今更私もアンタが好きなの、なんて言える程子供じゃないのよね。
‥‥アタシ達二人とも。


「剣士さんの心がどちらに傾いてもお相手は大変ね」


私達二人からこれから受ける報復代わりの悪戯に、という言葉にされなかった台詞はその黒い瞳から読み取って。


「当たり前よ」


ニンマリと小悪魔の微笑みを浮かべながら賢い女の子って損よねと小さく肩を竦めた。





-END-
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ