ちみルーク君シリーズ
□第6話(1P)
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『ルーク君、初めての料理見学』
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敵を見事追い払ったルーク。だが。
「……はあ…はあ…っ。あ…」
「!? ルーク!」
木刀を両手に握りしめた体勢のまま崩れ落ちそうになった少年の身体を、ティアが慌てて支える。
「まさかあなた、どこか怪我でもしたの?」
「…けが? ……ううん、してない…」
ティアの身体に完全に背中を預けた形でルークはじっと目を閉じ荒く息を吐いていたが、次第に落ち着きを取り戻すと長く息を吐いた。
「…あ、あの………お…」
「お?」
ルークは何とか息を整えると、心配そうに眉をひそめるティアに小さくぽつりと呟いた。
「……………おなかすいた…。」
ぐぎゅるる〜う
「!!」
ほぼ同時に鳴り響いた腹の虫の合唱に、二人の頬がたちまち真っ赤に染まる。
(そういえば昨日から今まで何も食べてなかった…)
無論、ティアも。
軍人だって人間。
腹は減っては戦は出来ない。だから有事には多少の空腹に耐える覚悟だって身につけている。
だけど彼は民間人。
貴き身分の生まれ云々以前に、成長期真っ盛りの子供なのだ。
丸一日近く空腹のままで戦闘もこなしたのだから、こうしてへたりこんでしまうのも無理は無い。
「じっ……じゃあ、早速お昼にしましょうか!」
努めて冷静沈着の仮面を被ろうとしているティアだが、気恥ずかしさで声が上ずっている事に気づいてすらいない。
「え……でも俺、食べるものなんて何も」
「大丈夫よ、私が今持ってきてるから。早速今から作るわね。」
ティアは背負っていた荷物から小さな袋と黒い水筒のような物を取り出す。
黒塗りの金属蓋を開け、近くの川の水を汲んで袋の中身である米を放り込んだ。
次に拾い集めた枯木から焚き火を起こし、水筒を火に架ける。
その一連の工程をルークは不思議そうにティアの背中を付いて回り、また物珍しそうに眺めてもいた。
「ティア。何が出来るの?」
「ご飯を炊くのよ。」
「ごはん…?」
この少年は公爵家の一粒種、跡取り坊ちゃんだ。
それ故ごく普通の家庭のように両親から炊事を伝授する機会なんて無いのだろう。屋敷には専任の給仕やコックが雇われているのだから。
況してや御曹司自らが台所に立つ機会があるかどうななんて、本人に尋ねてみてもきっと想像すら出来ない事だろう。
やがて水筒から湯気が立ち上り始め、蓋の隙間からは白い泡をこぽこぽと吹いている。
軍事訓練で培った野営用の炊事なので慣れたものだが、こんな形で役に立つとはちょっと想定外だった。
くんくん。くんくん。
「…いい匂いがする! 早く出来ないかなぁ」
ルークは目をキラキラさせながら、水筒から吹き出る匂いに鼻をひくつかせている。
空腹を抱えているので、尚更待ち遠しいのだろう。
顔には出さないが、ティアも同じ気持ちだった。
「…もう充分みたい。水筒をおろすわね。」
ごぽごぽと激しく泡吹く水筒を慎重に火から外し、蓋を開ける。
ふっくらと艶やかな白飯と水筒にこびり付いたお焦げ。
どうやら上手くいったようである。
ご飯をよそおうティアの肩越しから、ルークが嬉しそうに覗き込む。
「あっ、ライス!美味しそう」
「ライス?…ああ、あなたの家ではそう呼ぶのね。」
「うん。…てことは、ごはんってライスと同じ物なんだ。ふーん……」
おそらくは公爵家の、いや貴族特有の呼び名なのだろう。
「ライスってそうやって作るんだ。俺、初めて知ったよ!」
興味津々に話し掛ける貴族の少年と、彼に微かな笑みを浮かべる軍人の少女。
「お握り作ったから、冷めないうちに早く頂きましょう。」
「うんっ!!」
抜けるような青空と優雅に舞う二羽の渡り鳥が、二人のささやかなランチタイムを見守っていたのだった。
→第7話に続く
2008.04.19 完成
2008.08.08 加筆修正