ちみルーク君シリーズ
□第2話(1P)
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『ルーク君、初めての野宿』
王都バチカルの最上段に位置する王族の住まうエリアから立ち昇る擬似超振動の光は、一筋の矢となってタタル渓谷まで飛んでいく。
そして、数時間が経過した。
「………う…ここは」
目覚めたティアはあちこち痛む身体をゆっくりと起こし、いま置かれている状況を把握しようと周囲を見回した。
(……タタル渓谷、ね)
辺りはすっかり夜半の気配。
だが幸い、魔物の気配はないようだ。
「っ、そうだわ! あの時一緒だったあの子は何処に……」
再び視線を張り巡らせると、月明かりの草に朱色の頭がすぐに眼に飛び込んだ。
「……無事、みたいね。」
ティアの方向に身体を向けた横倒しの格好で倒れている、自分に挑みかかった幼い剣士。
あの時動揺と殺気に満ちた光を放っていた翡翠色の瞳は、今は目蓋の下に閉じられている。
仕立ての良い白いコートの裾と襟足の朱い髪が、ひよひよと渓谷の夜風にゆられていた。
「………」
そっと触れてみると、子供特有の柔らかい髪の感触がとても心地よい。
……すー。……すー。
少年は、穏やかな寝息を立てて気持ち良さげに眠っているままだ。
「…………………」
「かわいい………」
例えで言えば大好きな母犬の傍に寄り添い安心感一杯に包まれて眠る仔犬。
温かな陽だまりの下で、耳をへにゃりとさせ丸まっている猫。
ティアはふるふると悶えてていた。
(何? 何て可愛いのこの子!)
訂正、萌えていた(笑)
どうやら彼女の可愛いもの好き属性……もとい母性本能にクリーンヒットしたらしい。
(赤い髪に緑の瞳…キムラスカ王家に連なる子供。ルーク=フォン=ファブレ……)
ひとしきり萌えが落ち着いたティアは自分が羽織っているマントを外し、眠っているルークにかけてやる。
「風邪を引くといけないから……ね。」
それにしても、私は大変な事をしてしまった。
私情で無関係な人間を巻き込んだ。
不慮の事故とはいえ、こんな場所にまで飛ばされて。
私有地不法侵入&公爵家子息拉致事件として、今頃ファブレの屋敷は大騒ぎに違いない。
(ごめんなさいルーク…私、責任を持ってあなたをバチカルまで送り届けるから)
ティアはルークにそっと寄り添い、一夜を過ごしたのだった。
→第3話につづく
2008.02.29 完成
2008.06.07 加筆修正