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短編よりも短い文達


シリーズ化しているものもあり


殆ど日雛です
けれどたまに藍雛 ギン雛
吉良雛あり
◆さよならイノセント(大学生ひつ×中学生雛) 




じゃあね、シロちゃん。


友達に桃、と呼ばれると彼女はあっさりと背中を向けた。俺は玄関先でお預けを食らった犬みたいに遠ざかる少女を見送った。
ぶかぶかの制服を着て真新しい鞄を下げて、どこからどう見てもほやほやの新中学生だ。駆け出してった先には同じ制服を着た友人達。俺はもう振り返りそうにない後ろ姿に保護者の嘆息をついた。
子供の成長を実感する親ってこんな気持ちなんだろうか。ついこの間まで転んで泣いていたのに、いちいち振り返って俺が自分のことを見てるか確かめていたのに。1つ新しい箱を開ける度、彼女の視界から俺が消える。今、友達と並んで歩く彼女は前しか見ていない。心配性の兄貴がその華奢な背中を見送っているとは露ほども知らないのだ。
俺は自分の鞄を肩にかけ、桃とは逆の道へと足を出した。
ただの隣人なのに感傷に浸るなんてどうかしてる。近所の子供が成長しただけだ、大事件でもなければイベントでもない。ああでも喜ばしいことなんだろう。あの小さかった桃がここまで無事に大きくなった。今まで傷ひとつ付かぬよう大切に接してきた甲斐があったというもんだ。これから彼女は色んな経験をして大人になっていくんだろう。その身で学んでいくんだろう。

「シロちゃーん!いってきまーす!」

見えなくなる最後の角を曲がる時、桃が振り返って手を振った。でかい声で呼ぶなよと思いながら片手を上げたが彼女は俺の仕草を見ることなく姿を消した。感慨に耽っているのは俺だけだ。でもこれでいい。成長の証なのだ。やがて、今まで無条件に差し出されてきた手を選別する時がくる。手を取りたいと思える相手が桃にも現れるだろう。
俺は歩きながらもう一度、息を吐き、深く吸った。

ほんの少し、息が苦しいのは気のせいだ。









*強シスコンなひつ
本人はちょっと面倒を見てやってる程度の立ち位置だと思っているけど周囲からはあのままいけばヤバい人とか思われてる。

2021/09/17(Fri) 14:48 

◆ヨモツヘグイ 



*高校生ひつ✖️大学生雛





何を飲む?と訊かれて当然のように珈琲と答えた。そんな俺の返事はお見通しだったらしく「だと思った」と言って彼女は大きめのマグを出す。

「熱いから気をつけてね」
「ああ」
「それ飲んだら帰るんだよ?」

湯気を吹くのに忙しいふりをする。誰がすんなり頷いてやるもんか。いつもいつも追い払いやがって。

「雨が降る前にね」


目を合わせずに黒い液体を睨む俺の頭の上から微かに笑う気配がした。生意気な聞かん坊、またそうやって姉貴ぶるんだ。違うからな。
この部屋で珈琲を飲むのも何回目だろう。一人暮らしを始めた幼馴染みが心配で、様々な理由をつけて通っていたけどそろそろネタも尽きてきた。だいたいこいつは女の一人暮らしがどれだけ危険か解っていない。洗濯物の下着は丸見え宅配はホイホイ開ける隣人の男に挨拶なんて要らねーんだよ、顔を知られてどうすんだ。等々、俺の心配事は増すばかり。学校から直帰するのは今や自宅ではなく桃宅だ。なのに、

「シロちゃん部活楽しい?」

なんてのほほんと訊いてくるから危うく珈琲をぶちまけそうになった。

「あ、そうそう、あたし来週からバイト始まるから夜来てもいないからね」
「はあ!!!!!!???」
「きゃああ!」

予想外の爆弾に立ち上がればその拍子にカップが倒れ、小さなテーブルに黒い液体が広がった。
なんだそれは!遠回しに俺に来るなと言ってんのか!?

「シロちゃん火傷してない!?大丈夫!?」
「バイトって、それって、もう………ここには来るなってことか………?」

自分でも情け無いほど弱々しい声が出た。桃はきょとんと目を丸くした後また笑う。

「シロちゃんはもう殆どこの部屋の住人じゃない。ここで珈琲何杯飲んでると思ってんの?」
「…………じゃあ………合鍵くれよ」

挑むように見つめたら、桃はゆっくりと微笑んだ。



俺はもうここの住人







*伊野ちゃんドラマ最高ですね
 コメントありがとうございます!!涙流しながら拝見しております。
 お返事は後ほど💦💦💦

2021/08/20(Fri) 11:42 

◆ティファニーブルー 


*学パロ日雛



スカイブルーの小さな小箱。こまどりの卵に由来すると言われているそれは若葉にも、南の海にも似た色だ。古くはイギリスで重要書類を仕舞う際の台帳の表紙に使われていたのが転じて大切な物を表す色になったとか。

今、桃の目の前に差し出された小箱にはそんなブルーの包みに光沢のあるホワイトリボンが掛けられていた。その外見だけでおしゃれに疎い桃でも世界五大ジュエリーの1つだと分かり目を丸くする。
これはいったい???
何故冬獅郎が桃にこれを突き出しているのか?その意図がまるで解らない。バイトを終え、やっと帰ってきたと思ったら「ちょっと話がある」と呼び出された。時刻はもうすぐ10時になる。いったいなんなんだと思いながらも待ち合わせ場所に行けば冬獅郎は無言でこれを突きつけてきた。

「え?あの?」
「ん、」

いやいや「ん」じゃ分からんから。
無言の冬獅郎が恐い顔してぐいぐい押しつけてくるからとりあえず受け取ったがこれをどうすればいいんだろう?普通に考えて桃にくれたと取っていいんだろうか?でもこれってたぶん、
ジュエリー=装飾品=ブランド=お高い。それを桃に?それとも預かり物?


「あの………もしかしてこれあたしに?」
「他に誰がいるんだよ。わざわざ呼び出してんだぞ」
「誰かへの言伝かなと」
「馬鹿か!」
「ひぇ!」

くわ!と目を剥かれて縮こまってしまった。冬獅郎はいちいち口数が少ないからややこしい。自分を棚に上げて、察しろ分かるだろ、と圧をかけてくる。常日頃桃のことを鈍感とか鈍いとか言うけれど、そもそも冬獅郎の言葉が足りてないんだと思う。こちらは悪くない、断じて。したがって馬鹿呼ばわりは許せない。桃はむっとして頬を膨らませたが冬獅郎には伝わっていないらしく、軽く躊躇いを見せるとボソッと呟いた。

「それ……やるよ」
「え?」
「………お前にやる」
「………どうして?こんなの貰う理由がないよ」
「たまたま…店の前を……通ったから……」
「たまたま……」

たまたまでン十万の買い物をする?そんに金持ちだったっけ?桃は箱を持ったまま固まった。

「そ、それだけだ!じゃあな!」
「あっ、シロちゃん、」

冬獅郎は唐突に別れを告げるとさっさと背を向けて駆けて行った。後に残された桃は小箱を持ったままポカンとするばかり。長年幼馴染みをやっているがいまだに冬獅郎が何を考えているのかよく分からない。目を下にやればティファニーブルー。爽やかで優しい色の箱が桃の反応を待っている。冬獅郎の瞳によく似た温かなブルーが。

「学校の課題より難しいや……」



*bleach はやっぱり面白いですね(再認識)

2021/08/12(Thu) 04:10 

◆この夜空を忘れない 






走りながら溢れ落ちそうな星空を見上げる。
蒸し暑い空気が纏わりつく。
線路沿いの道を走ける冬獅郎の横を快速電車が涼しい顔して抜かしていった。こっちは汗だくだというのに、でも速度は落とせない。

桃から返信が来たのは1時間前。「会いたい」「今夜会える?」の文字にスマホを砕きそうなほど握りしめた。
恋人でも何でもない、普通の幼馴染みなのに唇を奪ったのは先日のこと。驚いた顔をする彼女の目が見られなくて逃げるようにその場を去った。冗談だとも言えず事故にもできない。からかったにしては悪質なキスを桃はなんと思っただろう。想いが募りすぎてつい、なんて言ったらそちらの方が困るかもしれない。冗談ということにしておいた方が彼女にとっては楽かもな。と、ひたすら桃のことでグルグルしていた数日間にピリオドを打たれた瞬間だった。「好きだ」と送った直後だった。もうそれしか伝えられなくて無機質な3文字に祈りをこめた。
行動に起こしてしまったということはもう限界が来ている証拠だ。冬獅郎は唇を奪ったけれど桃は遥か昔に冬獅郎の心を奪っている。奪ったまま解放もしてくれなくて無邪気につつく。はち切れんばかりに膨らんだ風船は一瞬手が触れただけで弾けてしまった。

快速電車が抜けて踏切の遮断機がゆっくりと上がるのが遠目に見えた。やった、足を止めずに踏切を渡れる、と更にスピードを加速する。もう汗だくを通り越して滝汗だ。
彼女がくれた返信は「会いたい」「今夜会える?」の前に「あたしも好き」と確かにあった。冬獅郎がずっとずっと欲しかった言葉が浮かんでいた。夢じゃない。夢じゃないのだ。
ああ、今、力いっぱい桃と叫びたい。冬獅郎が痛むほど震える胸を抱えながら夜空を仰ぐと満点の星空で、それはまるで、




祝福のクラッカーみたいだ。








2021/07/24(Sat) 23:26 

◆良質な眠りをくださいな 



睡眠は大切だ。1日の疲れをとり翌日からの英気を養う重要ない休息時間だ。寝苦しかったり寝付かれなかったりすると最悪で、暗闇の中ひたすらベッドの中で苦しまなくてはならない。俺にとって睡眠はとても重要で、ベッドのサイズはもちろん枕もシーツもライトも拘り抜いた一品だ。何ものにも邪魔されずに眠れる夜はまさに至福の時間なのだ。
なのに。
深夜2時、何度目かスマホの画面で時間を見る。早く眠りたいのに眠れない。幾度となく寝返りうってもシーツの皺が増えるばかりで目は冴える。
このベッド、こんなに弾んだっけ?
いつも2人分の体重を支えてくれているからか1人減ると安定が悪い気がする。
しかしすぐにそんな馬鹿なと打ち消した。



今朝、桃が出ていった。
当分来ないからね大っ嫌い、と可愛げのない台詞を寄越してドアを閉めた。諍いの原因は些細な事。けれど彼女にとっては重要だったらしい。可愛くない事をいう桃に俺もカチンと来て「今日からゆっくり眠れて嬉しいぜ」と怒鳴ってやった。桃ときたら決まって夜中に暑いだ寝苦しいだと1度は起きるし少し離れると寒そうに擦り寄ってくる。寝相はわるいし寝言も言うし、油断してると人の寝顔をカメラで撮ったりもする。基本的に1人で眠りたい俺はおかげで万年寝不足だ。その元凶が居なくなって久しぶりに伸び伸び寝られると思ったのに、俺の眼は一向に閉じようとしない。無駄に明るいスマホの画面をぼんやり見続けるも待受の桃は能天気に笑うだけ。
クソ桃め。可愛くないにもほどがある。野比○び太並みに寝付きの良いお前はきっと今頃可笑しな夢でも見てるんだろな。畜生、俺だってお前のいない快適な夜を堪能してやるんだからな、馬鹿桃。
そう思って毛布を引っ被った時だった。スマホが軽く振動した。

【ねぇ、寝た?】

シンプルな文字が画面に浮かぶ。時間はもうすぐ午前3時。年末のカウントダウンでさえ寝ちまう彼女にしては青天の霹靂だ。

【寝た】

仕方ないから返してやるよ。





*シロは桃ちゃんという抱き枕が無いと眠れない体質だといいよ!

2021/06/27(Sun) 02:04 

◆付き合ってはいない 




*原作日雛


これは先日撮った写真だと副官が机の上にばらばらと撒き散らかした。時間の合う数人の仲間と新しくできた料亭に行ってきたという。そういえば俺も声をかけられたな、そういつもいつも付き合ってられるかと断ったんだった。そうかこういう面子だったのか。
赤ら顔や眠そうな顔のやつもいるが皆笑っているからさぞかし楽しい酒の席だったんだろう。射場、檜佐木、吉良、総隊長、まぁ、漏れなくいつものメンバーだ。
ここで出される料理が変わってて〜などと横で宣う松本の説明を聞き流しながら写真を繰っていると、とある1枚で俺の手はピタリと止まった。
平子と雛森。
言わずと知れた五番隊のツートップ。
こいつらも行ったのか。仲良さげに寄り添ってピースサイン。雛森のこの顔はだいぶ酔いが回っている時だ。甲高い声でけらけら笑っていたに違いない。

「ちょ、隊長、あんまり強く持つと写真が皺になるんでやめてもらっていいですか?」
「近ぇ………」
「聞いてます?」

楽しい酒はいい。絡んだり喧嘩するよりずっといい。
しかしぁ!
なんなんだこの手はぁ!!
締まりなく笑う平子の手が雛森の肩に回っている。とっっっっても仲良さげに寄りそう二人は肩も頭もくっつけてめちゃくちゃ、めっっちゃくちゃ睦まじい。「二人もっと近づいて〜はい、チーズ💕」と言われたにしても!こんなくっつく必要ある?!ねぇよな!?

「あ、それ面白かったんですよ。雛森が酔って平子隊長の鼻に枝豆を、」
「うるせぇ!こんなのただのエロ上司と泥酔OLだろが!」
「いやそんな風には…」
「お前もその場にいたんなら隣同士にさせるなよ!引き離せ!」
「んもー、やめて下さいよ嫉妬なんて」
「しっ………………………………………………………………………………………嫉妬なんかじゃねぇし!」









*写真てあまり見なくなりましたね。

嫉妬かと言われると大人しくなっちゃう隊長
ファブルネタちょこっと(木村さん可愛い)

2021/06/25(Fri) 13:27 

◆虫、追払い中 


*学パロ日+雛



休憩時間にクラスの連中とたむろってたら隣のクラスの桃が来て「これおばさんに渡しておいて」と紙袋を押しつけてきた。なんだよ?と中身を見ると外人モデルが表紙になった美容雑誌で流行りのコスメやら雑貨などの見出しが踊っていた。

「ずっと借りっぱなしだったの。シロちゃんから返しておいてくれる?」
「自分で返せよ」
「あたし大会が近いから毎日遅くてシロちゃんちに行けないの。じゃあよろしくね」
「ち、しゃあねぇな」

にこやかに手を振り去っていく桃に俺は渋い顔をして紙袋を鞄に仕舞う。
ったく、いくら便利だからって直ぐ俺を頼りやがって。まぁ幼馴染みだし古い付き合いだし俺と桃の間柄だし全然いいけどな。はは、困ったやつだ。
そんな時、突如後ろで聞こえた呟きに俺のアンテナはピンとたった。

「雛森っていいよな」







……………………………あ?(超低音)
いい、とは?(混乱)
桃の何がいいんだよ。まさかと思うが女としていいっつってんじゃねぇだろうな(憤怒)
俺は神速で振り向いた。

「ひっ!」
「おいお前今どういう意味で桃がいいっつったんだ?あれは女としちゃ最低最悪な部類だぞ。朝は一人じゃ起きられねぇし部屋は汚ぇ。カビたパンも平気で食べるしゴキブリも素手で掴む。頭も悪ぃからテストはいつも赤点だし足も臭ぇ。くしゃみはゴリラ並みだし剛毛だから毎日の顔剃りには親父さんのシェーバーを使っている。小柄なくせに食欲はシロナガスクジラだからあいつのせいで雛森家の食費はマジやばい。それくらいダメダメな女だぞ?」(ここまで一息)
「…………悪かったよ、雛森に手ぇ出さないから安心しろよ」





*「だからそんな必死になるなよ」という友人の憐みの目
コメントありがとうございます😭日々励まされてます!!

2021/06/09(Wed) 23:33 

◆ほんの10秒 



お伽噺の王子でも昔はとても食べられない、なんて歌があったっけ。
ほら、と突き出されたピンク色はあたしの大好きな苺のフレーバー。日番谷君の手にも白いアイスが握られていてあたしはゆるゆるに頬が弛んでしまった。

「食べるんだ?珍しい」
「たまにはな」
「へへへー」
「なんだよ?」
「やっぱり疲れてる時は日番谷君でも甘いのがほしくなるんだね」
「…………疲れの元凶はお前なんだけど」
「へへへへ」


今日のあたしは憎まれ口にも動じない。だって日番谷君の目がずっとずっと優しいもの。
二人の付き合いは長いけどデートと名のつくものは今日が初めて。今年の春から突然滑りだした二人の仲にあたしの気持ちはやや遅れ気味だった。
本当に日番谷君の付き合ってる?
あの日番谷君と?
昔シロちゃんだったあの彼と?
そんな現実とは思えない現実にあたしは毎朝頬を抓る日々だった。

ペロリと一口、冷たいやつを舐めてみる。うん甘い冷たい美味しい、そして日番谷君が笑っている。

「うふふふ」
「何が可笑しいんだよ?」
「日番谷君が笑ってるからおかしくて」
「はぁ?笑ってんのはお前だろ」

はいはいそういうことにしておきましょう。
夕べは来ていく服や髪型に悩み、なかなか眠れなかった。いつもふざけあってた相手なのに何を話せばいいのか分からなくてなかなか寝つけなかった。
でも案ずるより産むが易しとはよく言ったもので、あんなに何を話そうか悩んでたのが嘘のように二人の会話はスムーズで、あたしは密かに胸を撫で下ろしたのだった。
ああ良かった。友達から恋人に変わってもあたし達はあたし達なんだ。普段と変わらぬ彼の様子に一人で緊張してるのがばかばかしくなる。

「うーん、美味しい!」
「そんなに美味いのか?それ」
「うん、これ大好きなの。ほっぺが落ちそう」
「へぇ、どれ?」

言うが早いか日番谷君はあたしの手を掴み、苺のアイスをペロリと。あたしの目を見つめながらペロリと。
ほんの10秒足らずのさらりとした仕草だけれど、掴まれた手は引っ込められないほど強かった。

「あ、あの、」
「………間接キス、だな」


ニヤリと笑った日番谷君に手の中のコーンが潰れたのは言うまでもない。



アイスクリームの数だけloveがあるんじゃないかと思ってしまった。

2021/06/06(Sun) 20:42 

◆drive 


*パロ日雛


あの車いいなぁと桃が言った。
俺の運転で海を目指しているときだった。ちょうど信号待ちで止まったから桃の視線を辿っていくとどこかのガレージに小ぶりのキャンピングカーが停められていた。

「ベットもあってキッチンもついてて、まるで移動できる家だよね。面白そう」
「宿泊先を捜さなくていいのは楽だよな」

けれど小さな家だけあって安くはない。3年ローンを組んだこの車があと3台くらいは買えるだろう。
ソロキャンプが流行ったせいか軽ワゴンを自室風にする輩もいるらしい。もはや車は自室か別荘扱いか?少し日常から離れたい時などはお手軽に現実逃避できていいかもな。

「でもあたし達には氷輪丸があるし、いらないね」

桃が窓の外からこちらへと視線を移す。さも当たり前のように言うから俺はハンドルをきりながら笑ってしまった。
俺が初めて自分で買ったこの車に桃は勝手に名前をつけた。昔俺んちで飼ってた犬の名前だ。結構大きな犬で桃は自分ちの犬のように可愛がっていた。その氷輪丸はもふもふから鋼鉄へとボディを変えて今も俺達を乗せてくれる。
思えば彼女と初めてキスしたのはこの車の中だった。初めて助手に座ったのも彼女ならシートを押し倒したのもコトを致したのもここだ。

「この車であちこち行ったし思い出が詰まってるもんね」
「そうだな」

とんでもない思い出の宝庫だけどな。
俺がやらしい記憶にニヤけてるとも知らず桃は感慨深げに話す。二人の温度差がおかしくて、弛む口元を手で隠した。

「ね、CD替えていい?」
「おう」

桃が手を伸ばしてケースを探る。白い半袖から柔らかそうな腕がチラつく。身体の中から湧き上がろうとする雄を無視してアクセルを踏んだ。

また1つ思い出が増えていく。

2021/06/05(Sat) 00:12 

◆6月3日 




桃ちゃんお誕生日おめでとう!!!!

また夜に!!

2021/06/03(Thu) 06:40 

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