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□過去拍手「秋風の忘れ物」
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日番谷君があたしを、なんて今まで考えたことなかった。
いつだって憎まれ口で、しっかりしてて、無愛想だけど優しい。小さな頃から知ってて弟みたいに思ってたのに。
急に違う表情を見せるなんて反則だ。
次、日番谷君に会う時、どんな顔すればいいんだろう。
あたしのことだ、きっと挙動不審になる。告白して恥ずかしいのは彼なのに、みっともないほど取り乱すのはあたしなのだ。そんでもって「なにやってんだよ。お前頭大丈夫か」とか言われるんだ。あー、こんなとこまで予想できちゃうくらい知りつくしているのになんで告白されるまで彼の気持ちに気づかなかったんだろう。
あたしって皆がいうように本当に鈍感なんだろうか。
いったいいつから彼は……。
「うー……っ。」
「あんまり頭使うと壊れるぞ。」
誰もいないはずの屋根の上でいきなり声がして跳ね起きた。
「ひ……、ひつ……なんで……。」
見れば屋根の端っこ、あたしとはだいぶ距離をとった場所で日番谷君が座ってた。きっと気を使ってわざと遠くに座ってるんだと直ぐにわかった。
「お前んとこの隊士が探してたぞ。たぶんここだろうと思ってな。」
「そう……なんだ。」
「その…驚かせちまったな……。」
そう言って日番谷君は鼻の頭をちょい、とかいた。
青い空の背景を背負った彼の銀髪が風に揺れた。
少し拗ねた顔は照れてる証拠。よく分かってるはずなのに見たことのない男の子に見えた。
顔から離れていく指も、風に溶けそうな銀髪も、こんなにも綺麗だったっけ?
まるで知らない日番谷君に、とくんと胸が何かを知らせた。
「雛森…びっくりさせたのは悪かった。でも謝らねぇから。………夕べ言ったこと、全部本当だ。」
「日番谷君………。」
いったいいつから彼はこんな熱い瞳をするようになったんだろう。
なんであたしは胸が苦しいんだろう。
「ふ……ぇ……、」
知らない彼に出会って泣きたくなるなんておかしい。あたしおかしい。
困ったように笑った彼が立ち上がって一歩足を踏み出した。
風が耳元でうるさくなって、日番谷君の足音が聞こえない。
雛森、と彼の唇が動いたけれど、それも風に持っていかれた。
こんなに全ての音を邪魔するんなら溢れ出したあたしの涙も持っていってほしかったけれど、たぶんそれは彼の指で補えるんだろう。
さっき見惚れた指が、ほら、もう目の前まできてる。