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□白がすき 碧がすき
〜それでも人は生きていく〜
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食事の前、棚の上に小さく置かれたギンの位牌に線香を供え軽く手を合わせる。これも朝晩欠かさない、もう日常の一コマだ。
「お母さん、おかたづけ、できた。」
とてとて歩いて冬獅郎が手を合わせるあたしの元へとやってきた。
寒くないようにと厚めの服を着せたせいか息子はもこもこしてる。ふくよかな頬もやわらかそうで、そのぷくぷくのコロコロに目尻が下がる。
もしギンがいればこんな可愛いの黙って見てられないだろう。きっと抱き締めて頬ずりしてる。
ああでも素直でない彼のことだから愛しすぎて苛めちゃうかもしれないな。
ぷっくりした小さな手をあたしの肩に置いた冬獅郎に振り返り、食事の用意をするためあたしは立ち上がった。
「えらいえらい。じゃあ手を洗ってね、もうできるから。」
「うん、がってんしょーち。」
「っぷ、なにそれ。」
「ももがいってた。がってんしょーち!」
「あははは。」
姉の家でも桃が同じ言葉を言っているのかもしれない。それを聞いた時の姉が笑ってる姿も容易に想像できる。舌足らずだけれどおしゃべりな桃は冬獅郎のいい相棒だ。
冬獅郎がいつも通り小さな踏み台を出して台所の流しで手を洗う。その様子を見届けてあたしはコップや箸を食器棚から出すため離れかけ、今もコンロに土鍋がかけてあることを意識した。
鍋がかけっぱなしなのを忘れてたわけじゃない。
ほんの仕上げの僅かな時間なのだ。
玉子が少し固まるまでの。
冬獅郎がそれのそばにいる。いつも通り上手に手を洗ってる。やがて彼は手を洗い終え、いつも通りまた踏み台を片付けるのだろう。でも一応火を消して危なくない所に退けなければ、そう身体は動いたのだ、でも…。
でもこれは全て醜い言い訳だ。
「冬獅郎、熱いのがあるから気をーーーー。」
手を洗う冬獅郎の横で水切り皿を挟んで土鍋が吹いていた。危険なその状態にあたしの身体は動いていた。火を消して鍋を横へやらなければ。
そう動いていたのにーー。
「と……!!」
背後から声をかけたあたしを見ようとしたのか、台の上の冬獅郎は振り返ったと同時にバランスを崩し、横にあった水切り皿をひっかけながら狭い床に倒れこんだ。
その拍子に、なんてこと。
息が止まった。
熱い、鍋が、冬獅郎に