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□過去拍手「love lesson」
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*惰性慣性
一寸先は闇なんて言うけれど、冬獅郎の未来は本当に色が無い。
今日も楽しかったな、なんてスキップ踏む桃の毎日は、きっと春のお日様色だ。
受験生のための補習講座を終え、いつもより一時間遅れで帰宅の路についた桃。
傾いた太陽は夕暮れ。
桃はそのオレンジの眩しさに目を細めた。
「あれ…?シロちゃんだ。」
道の先にある交差点によく知る銀髪の後ろ姿を見つけた。薄っぺらい鞄を脇に挟み両手はズボンのポケットの中。
「また両手ポッケに入れてる…。」
転んだりしたら危ないって言うのに…。
保護者のような呟きと共に駆け出そうとして急停止した。桃の視界に映る彼の隣りには髪の長い少女がいる。
「っとと、彼女さんと一緒だった。邪魔しちゃ駄目だよね。」
白いスニーカーで踏ん張ってつんのめる身体を立て直す。
桃の一コ上の幼馴染み、冬獅郎はモテる。
とてつもなくよくモテる。
彼に見つめられた女の子はまず間違いなく恋に落ちる。
しょっちゅう告白を受ける冬獅郎に彼女ができないわけはなく、女の子と並んで歩いている姿を見るのも初めてではない。
初めてではないが……。
「相変わらず怠そうに歩いてるなぁ……。」
桃の行く道の先に並んで歩く一組の恋人達。一見幸せそうなカップルなのだが………。
桃は二人の後を遠く離れて、決して距離を詰めることなく、同じ道を辿る。
ふぅ……。
呆れ混じりのため息が思わず漏れた。
長身の冬獅郎の横で楽しそうに話しかけてる女の子。嬉しそうに、でも少しはにかんで笑う少女はとても可愛くて綺麗だ。
恋してます、そんな気持ちが桃にも伝わってくるような可愛い少女が冬獅郎に向かって微笑んでいる。
なのに隣りを歩く冬獅郎ときたら………。
「なんでああ猫背になるんだろ……。」
オマケにずっと俯いて、時々彼の肩が上下するのは、もしかしてため息か?
可愛く笑う彼女の方を見もせずにただ足を前に運ぶだけ。
「………。」
嘘でしょう…?あたし好きな人にため息つかれたりしたら死んじゃうよ……!
冬獅郎の横を並んで歩く彼女のすぐ隣りを、道行くバイクが荒っぽく走り去った。
「きゃっ、」という小さな悲鳴が桃の耳にも届いた。
けれど慌てて避ける彼女を冬獅郎はちらりと見ただけで、また二人は元通りに歩いていく。
なにあれー!!
彼女が危ない目にあったら守るのが彼氏でしょうが!
彼女の手をとって引き寄せるとか安全な道端を歩かせるとかないわけ!?
あまりの突っ込み所の多さに離れた場所から冬獅郎に怒りをぶつける。
あれだけモテて女の子もとっかえひっかえなのに恋人の扱い方をなに一つわかっていない。
だからいつも長続きしないんだよ!
冬獅郎が彼女と別れて一人になったのを見計らって、桃は彼に向かって駆け出した。