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□過去拍手 寒暖警報
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……まずいっしょ……。




心の中で思いっきり掌で額を押さえ天井を扇いだ。


そいつはまずいでしょ雛森。


日番谷の目の前で日番谷以外の男の為にマフラーを編む。
頼むから今すぐやめてください、と言いたい。

あなたが去った後、十番隊がブリザードに包まれるのは確実ですから。


「あ、そ…なの。あのね、雛森「藍染隊長、最近いつもされてるマフラー、無くされたんです。でも、お忙しいからなかなか買いにもいけないっておっしゃられてて……。」


乱菊が口を開いたことにも気づかず話出した雛森。編み針同士をカチカチと弾かせ照れる様子は純真可憐な乙女そのもの。


「でも、なんだかとっても…寒そうにしてらして……。」

悪気のない雛森からは冬空の合間に顔を見せた太陽のような笑顔が、けれどそれとは反比例して乱菊の隣り下から冷気が……。


まずいです!
雛森、まずいです!


「あ、そうなの。か、可哀相ね藍染隊長も、じゃ「だから……、」


またも遮られた乱菊の声。


「クリスマスも近いし私から藍染隊長にマフラーをプレゼントしようかなって。」



言い終わった途端、えへへ、と恥ずかしそうに身体を揺らした。

少しでも藍染に喜んでもらいたいとする気持ちはその緩んだ表情を見れば直ぐにわかる。

冬本番をすっ飛ばして春が到来した空気。



雛森……、今にも花が咲きそうだけど……。


ちろりと隣りの隊首席に座る日番谷を盗み見た。



「…………うるせえよ。」


小さく小さく呟かれた言葉。



湯飲みのお茶、凍ってますけどー!!!



「ひ、雛森っ、…あのね、」


「この色、藍染隊長に似合うと思いません?」


えへ、と小首を傾げて可愛く笑う。


いやいやいやいや、可愛いけど可愛いけど。似合うよ似合うと思うけど。


隣りがとっても寒いんですーーー!



隣りから立ち上ぼる冷気と後輩から放たれる暖気。


二つの気圧がぶつかりあうところって………涙の雨が降るんでしたっけ?



「雛…森…。もう休憩時間過ぎてない?大丈夫?」



きっとこの後、執務室は大荒れになるんだ。


心の中で嘆いて優しく後輩に時間を教える。
だてに長年十番隊副隊長やってません松本乱菊。


「ふわあぁ!いっけない!それじゃあお邪魔しました日番谷君、乱菊さん!」


慌てて持ち物を纏めて立ち上がった雛森。


たたた、と戸に手をかけてそっと振り返った。


「あの……。」


少しばかり口ごもって。


「なんだよ、早く戻らねぇと藍染が待ってるんじゃねえのか。」


刺々しい日番谷の声音にも気付かず、きゅ、と胸の前で握られた雛森の掌。


「あの、……日番谷君には超大作、用意してるから、……イブの夜、……空けといてね?」


言い終わるやいなやボン、と火がついたように赤くなった雛森。



パタンと戸がしまって細い身体が廊下へと消えていった。



「…………。」


「…………。」


「いまの……は?」


今一つ理解できてない不憫な隊長が凍り付いた湯飲みを持ったまま副官に尋ねた。


「何言ってんですかー!イブの夜に特別大作を持って訪れる相手なんて決まってるでしょうが!」


「え……。」



日番谷の掌の中の湯飲みが融解を始まる。


「つ……まり………?」


「きっとそういうことですよ隊長!おめでとうございます!恋愛成就(仮)おめでとうございます!」


和らいでいく冷気の中、難を逃れた自身の安泰と上司の長い片思いが終わる予感に涙ぐむ乱菊。



「じゃ、私、みんなに報告してきますからー!」


さっさと執務室を後にした。行き先は八番隊か十三番隊か、嫌でも見当はついてしまう。



「おい!仕事……行っちまった……。」




引き止める手を下ろし、早々に諦めた日番谷は、すっかり冷めたお茶を一口。


「まったく……どいつもこいつも……。」



但し顔は先ほどの雛森に負けないくらいに真っ赤。





冷たい空気と温かい空気のぶつかりあいの後、執務室を満たしたのは雨ではなくて南国並の湿度と気温。


今、本当にに冬ですか?




「………あちぃ……。」


日番谷が着物の合わせ目に指をかけ、パタパタ扇ぐ。









十番隊は一足お先に春、きました。






 
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