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□過去拍手 寒暖警報
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クリスマスまであと一か月。
現世では街の至る所でクリスマスソングなるものが鳴り響き、ぐるりと一周、見渡せば、金や銀、赤や青で彩られた小物やもみの木にお目にかかれる時期だ。
ここ瀞霊廷でも現世ほど派手ではないにしても、そこそこには浸透してきたクリスマス。
十番隊でも副隊長の乱菊が「パーティしましょうよー」と無駄口以外なんでもない要求をしてくる。
「寝言か?一番忙しい時期にそんなことしてられるか。」
一つ仕上がった書類を「済」の字が書かれた箱に収めてまた次の仕事に取りかかる日番谷。
「ええー、ほんの数時間じゃないですか、やりましょうよー。」
執務室のソファーに座り、煎餅片手に足を組む乱菊が上司の吐き捨てるような返事に口を尖らす。
その乱菊の向かいに座った雛森が棒針を持った手を動かしながらクスクス笑った。
「ダメですよ、乱菊さん。日番谷君の邪魔しちゃあ。」
邪魔どころか上司の手伝いをするべき副官は「だってえー。」と可愛い後輩に視線を移す。
「隊をあげてとなるとたいへんですし、女性死神協会でやるとか仲間内でやるとかどうでしょう?」
動かす手を止めて、柔らかに妥協案を勧めてくれる雛森の言に「それもそうね。」と煎餅に齧り付いた。
「もういいから、お前らどっかいけよ。集中できねえ。」
筆に墨を含ませながら、日番谷がいつものため息をつく。
「あらぁ、隊長、せっかく雛森が来てくれているのに嬉しくないんですか?」
からかい混じりの質問に眉間の皺が一本増えた。
「仕事の邪魔だ。気が散って仕方ねぇ。だいたいなんでここで休憩するんだよ。」
軽く頭を振って不機嫌を表す。でも、長年幼馴染みをやってきた雛森にはそんな嫌味な仕草も気にならず。
「だってここ楽しいんだもん。」
「ねーっ。」
「ねーっ。」
雛森と乱菊の声が重なる。
「…お前ら歳、考えろよ…。」
なにが「ンねーっ」だ。
「隊長ー、あんまりカリカリしてたら若白髪になりますよ〜、って元から銀髪か。」
あっはっはー、と笑う豪快な副官にプチリ、と何かの線が切れた音。
「松本ぉ!暇なら茶くらいいれ直せ!」
遂に落とされた日番谷の雷に渋々、乱菊が席を立つ。
その様子をも雛森には楽しくて、手は休ませずに肩を揺らして笑うのだった。
「ところで雛森はさっきから何を編んでるの?」
熱いお茶を日番谷の机に置きながら、乱菊が雛森に問う。
乱菊が長い長い書類配布から十番隊に戻ってきた時には既に雛森がやってきていた。
苦い薬でも飲んだような顔して仕事する日番谷と、彼が見える位置に腰掛け毛糸玉を脇に置いてせっせと指を動かす雛森がいた。
何を編んでいるのかはわからなかったが、くすんだ色合いの深い青の毛糸から察するにたぶん男物だろう。
「マフラーです。あと少しで出来上がるんで今日中に仕上げちゃおうかな、って。」
嬉しそうに仕上がり間近なそれを乱菊に見えるように掲げて見せる。
花が綻んだような笑顔に乱菊も頬が緩む、が……。
「…ったく。んなこと自分の部屋でやれってんだ。」
隊首机の脇に立つ乱菊の横から小さく聞こえた呟き。
花のような雛森の笑顔。
男物のマフラー。
不機嫌な上司。
この三つを合わせて考えられる答えは…。
「藍染隊長…に?」
目の端で上司の顔を伺いながら雛森に尋ねた乱菊。
その名前を聞いた途端、雛森が恥ずかしそうに身体を揺らし、「はい…。」と小さく返事した。