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□過去拍手・水中桜
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三日たってもまだ冬獅郎は臥せっていた。
朝になると幾分かは熱が下がり楽になるのだが、夕方頃からじわじわと体温が上がり始め高熱となる。
桃は心配で心配でいてもたっても居られず何度もお医者様の所に駆け込んだのだが、これといった薬も治療法もないらしく、桃達家族に出来ることは上手に熱を出させてやって冬獅郎が菌と戦う手伝いをすること、なのだそうだ。
「意味わかんない。わけわかんない。」
今日もお医者様の所へ走った桃は納得のいく返事をもらえず、口を尖らせてグチグチブツブツ。
頭の上には今が満開を迎える桜の花が見事に咲き誇っているというのに目もくれないで怒っている。
だいたい上手く熱を出すってなんなのだ。そんなこと調節できるのだろうか?
桃は今すぐ冬獅郎を元気に元通りにしてほしいのだ。
額に汗を浮かべて苦しむ冬獅郎が可哀相でならない。
桃は医者から受け取った熱さましの薬をギュッと握りしめた。
「ただいまぁ。」
徒労に終わった医者への抗議に肩を落として帰った桃。
その桃に祖母がお使いを頼んだ。
「え?玉子?なんで?」
「冬獅郎に栄養のあるものを食べさせようと思ってね。桃、悪いけど一つだけもらってきてくれないかい?」
冬獅郎が寝ている布団の方へ目をやれば、可愛い翡翠の瞳が桃をみていた。
「シロちゃん、起きたの?汗かいてない?苦しい?お白湯飲む?」
桃は祖母に持っていた薬を押し付け、冬獅郎の元へ転がるように駆け寄った。
性急に聞く桃に冬獅郎は小さく笑い「腹減った。」と一言口にした。
「…おなか減ったの?」
こくりと頷く冬獅郎。
「!おばあちゃん!シロちゃんがお腹減ったって!」
見る見る顔を紅潮させて祖母に訴える。
だって冬獅郎は今朝まで殆ど水分しか口にしていなかったのだ。ふっくらしていた頬が今では少しこけてきている。
「お腹減るって良いんだよね!?身体が元気になりかけてるんだよね!?だったらシロちゃん、もうすぐ直るってこと!?」
「そうだねぇ。」
「やったあ!あたし玉子もらってくるー!」
曖昧な祖母の返事を良い方に解釈して桃は跳ねた。
わぁいわぁい、と飛び回る桃の頭を祖母が優しく撫でる。それににっこりと笑って、今度は冬獅郎に飛び付いた。
「よかったねぇ、シロちゃん。もうすぐ治るよ。シロちゃんが頑張ったから治るんだよ。」
横になっている冬獅郎を抱き締めて頬擦りする。
「わかったから離せ。」
掠れた声で離すよう言ってみても喜びに溢れる桃には通じないらしい。
ひたすら良かったねぇ、を繰り返され抱き締められて冬獅郎は、また違う熱があがるのだった。