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□過去拍手・水中桜
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冬獅郎が目を開けた時、そばにいたのは桃だった。
何やら本を読んでいたようだが、冬獅郎がほんの僅か頭を揺らしたことに気がついて顔を覗きこんできた。
「シロちゃん、…大丈夫?しんどくない?」
普段騒々しい桃だけど今はそっと静かな声で冬獅郎に問いかける。
ただ赤い顔をして目だけを桃へと向ける冬獅郎に藍の瞳が心配そうに揺れた。
いつも生意気なことばかり言う口からは熱い息が吐き出され、呼吸は荒い。いつも元気な冬獅郎のこんな姿は見たくない。
喋れないほど苦しんでいる冬獅郎より意地悪で小生意気な冬獅郎の方がよっぽどいい。
こつん、と額をあわせたら、桃よりも高い温度が感じられた。
「熱…下がんないね。……シロちゃん、お白湯あるよ、少し飲んで。」
冬獅郎が小さく頷いたのを見て、桃はゆっくりと冬獅郎を起こす。そして熱のため乾燥した唇に湯呑みをあててやる。
汗をかいた冬獅郎は喉が渇いていたらしく、思いのほか白湯をよく飲んだ。湯呑みに二杯の白湯を飲み干し、三杯目を尋ねる桃に首を振った。
「よかった。お医者様がね、水分はこまめに取りなさいっておっしゃっていたの。
身体の中に水がなくなったら大変なんだって。でもシロちゃんは今二杯もお白湯を飲んだから安心だね。きっとすぐによくなるよ。」
冬獅郎に、そして桃自身に言い聞かせるように言う桃に冬獅郎は熱を帯びた瞳を向けた。
なんで泣きそうな顔してんだよ。
そんな呟きは音にならず、ただ熱い呼吸と差し替えられる。
心配すんな。
そう伝えたいのに、言葉はやはり音に変えることは出来ない。
横になった冬獅郎の枕元から桃はずっとずっと離れなかった。
眠るわけでもなく、ただ半開きの翡翠の瞳が桃を見つめてくるのを身動(みじろ)ぎもせずジッと受け止めていた。