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□過去拍手・水中桜
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シロ桃




水中桜





季節外れの発熱。

どんな大雪の日も凍て付くような寒さの日も薄着で過ごしていた冬獅郎が、春真っ盛りの暖かな日、熱を出した。


「あ、やっと起きてきた。おはようシロちゃん、寝坊なんて珍しいね。」


肩を少し超えたくらいの髪を二つに結い終えて桃が近付いてくる。


「…うるせー。お前はいつだって寝坊してるじゃねぇか。」


寝間着のまま卓袱台の前にペタンと座りぼんやりしている冬獅郎。おはようの挨拶もなしに憎まれ口を叩く冬獅郎に桃は、むっ、として近付いた。
この小さくて生意気な少年に朝から説教するつもりで向かい合うように座ったのだが…、


「あ、れぇ?シロちゃん顔赤い?」


「んあ…?」


「ちょっと見せて。…………やだ!すごい熱!寝てなきゃダメだよ!」


怒る気まんまんだった桃は冬獅郎の額やら頬やら首やらをペタペタ触りまくった後、驚いて叫んだ。


「すぐ布団に戻って!おばあちゃん呼んでくるから!」



まだぼーっとして座っている冬獅郎にそう言い置いて桃は外で洗濯をしている祖母を呼びに飛び出して行く。


そうか、このダルさは熱があったからか。どうりで寒気がすると思った。
なら布団に入ってもう一度寝よう、と立ち上がるのだが力が入らない。もじもじと身体を揺すったきり動くのが面倒になってしまった。


「おばあちゃん早く来て、シロちゃんが大変なの!あっ!なんで寝てないの?!ダメじゃない!」


祖母の手を引っ張って連れてきた桃は先ほどと同じ状態の冬獅郎を見て声をあげる。
その大きな声に冬獅郎は眉を顰(ひそ)めるが、桃は気付かずに箪笥の中から厚手の半纏を引っ張り出し、冬獅郎の肩にかけた。

祖母はそんな冬獅郎の前に膝をつくと、やっぱり桃と同じように額に手をあて、耳下の首筋に手をあて、をしたのち、のんびりとした口調で「季節の変わり目だからねぇ。」と言った。


「桃、お医者様を呼んで来ておくれ。婆ちゃんは冬獅郎を布団に連れていくから。」


「はあい。」


再び外へ出ていく桃。
祖母は空ろな目をしている冬獅郎を半纏ごと抱き上げて布団に寝かせてくれた。



顎の下までぴっちりと冬獅郎を布団で覆うようにして、祖母は優しく銀髪を撫でてくれる。


冬獅郎は静かな時の中、ゆっくりと目を閉じた。












 
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