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□過去拍手・宴の帰り道
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この世に不変であるものなんてないんだと思う。
無機物は老朽化するし、生命あるものは生まれ、実を結び、土に、又は水に帰す。
人の気持ちだってどう転んでいくかわからない。
俺だって、まさか雛森のことをこんなにも好きになるなんて、ガキの頃には思いもよらなかったさ。
阿散井達の披露宴が終わり、俺は酔った雛森をずっと背中に負っていたが「ちょっと歩きたいな。日番谷君、降ろして?」と言われて手を弛めた。
「歩けんのか?雛森。」
「うん、ありがとう。大丈夫だよ、…っと、」
ああ、ほら、まったく。
言ってるそばからこれだ。
支えた俺の肩に手を置いてバランスをとる雛森。えへへ、平気平気、なんて笑う笑顔は気の抜けきった顔で酔っているのがまるわかりだ。
俺と雛森、横に並んで歩き出す。
昔よりもだいぶん縮んだ身長差にコッソリ喜びをかみしめた。隣りを見れば雛森の瞳が俺の正面にあるんだ。これは大喜びしたっていいだろう?
「いいなあ、花嫁さん。幸せそうで。」
俺が浸っていると、隣りの雛森がぽつりと言った。
「あのね、あたし本当は少し淋しいなー、って思ってたの。」
雛森は困ったように眉を下げた。
「あ、もちろん阿散井君と朽木さんには幸せになってもらいたいと思ってるんだよ。でも……、なんだろう?ちょっと形が変わっちゃうのが………。」
「…不安なのか…?」
「うん…、たぶん、そう。あたし、今のままで安心してたから。ずっとこのままだ、って思ってたから。…………周りが変わっていくのについていけてないんだね。」
横髪を指で弄びながら笑う雛森。
その気持ちは、なんとなくわかる気がする。
俺の脳裏に霊術院に向かう雛森の後ろ姿が蘇る。同時にその時見送った自分の拳に力が入ったことも、…力が抜けたことも。
たとえ喜びの中にでも変化は少しの淋しさを連れてくるのだろう。
それはこれから迎える未来への不安なのか。
「怖がってちゃ望むものは手に入らない。だから阿散井達は踏み出したんだ。」
「うん…。だから今日の朽木さん、すごく綺麗だった。あんなに綺麗になれるなら結婚するのもいいね。」
「皆が当てはまるとは言えねぇぞ。」
「もう、またすぐそんなこと言う!そうだ日番谷君は現世のタキシードなんてのも似合いそうだよ。」
「勝手なこと言うな。俺はそんなもん着ねえからな。」
「うーん、日番谷君が結婚するとなると、あたしとおばあちゃんはやっぱり黒の留袖かなあ?」
俺の台詞を綺麗に無視して雛森は続ける。
「それって…。」
「だって、家族だし、親族として呼んでくれるんでしょ?」
「…………。」
呼んでくれないの?と俺の心中など米粒ほども察することなく、子犬のような瞳を向けてくる雛森。
お前は俺が結婚しても平気ってことだよな!ちょっとは寂しがってくれるかもしれないけど、笑って拍手してくれるってことだよな!
深い深い皺が眉間に刻まれたのが自分でもわかった。
「ふえぇ!?あ、あの、あの、もし日番谷君が派手なのが嫌だったら、家族婚って言うの?内輪だけでお食事なんて手もあるよ!?皆にはお知らせだけって言う方法もあるし。それとも、家族づらされるのが嫌……とか?」
最後の一言は消え入りそうに小さな声で。
お前はつくづく無邪気に残酷な女だな。
俺はため息をついて、頭に浮かんだ台詞に胸を落ち着かせた。
「お前が着るなら白無垢じゃねぇ?」
「はえ?」
とぼけた表情にこっちが赤くなるが、ちゃんと最後まで伝えきってやる!
「だから、俺の結婚式にお前が着る着物は白無垢だ。」
これでどうだ!
赤い顔だってさらけだしてやる!
半ばやけくそで雛森の返事を待った。
「それって……あたしと日番谷君の…合同結婚式……、」
「じゃなくて!」
馬鹿か!
どこまでおとぼけなんだ。
「あたしと…日番谷君が……、」
「新郎と新婦だ。」
「ふえぇえ!」
雛森は真っ赤に顔を染めて後ずさった。
そんなに驚かなくてもいいじゃないか…。
「なかなかいいだろ?」
俺がニヤリと口端をあげれば雛森は上目使いで睨んできやがる。
「う〜、なんか変な気分だよ。」
「六月に式あげてジューンブライドでもいいぜ?」
「あ、それいい…って、違ーう!なんか流魂街にいた時みたいになっちゃうよ。」
「別にいいだろ?」
「別にいい……のかな?」
「いいに決まってる。」
「…そっか、いいんだ。ありなんだ、こういうのも。」
ブツブツ呟く雛森が面白くて俺は噴き出してしまった。
願わくば、一夜明けても彼女の記憶がありますように。