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□過去拍手・宴の帰り道
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汗ばむ日も多くなった五月。
大安吉日を選んで瀞霊廷内の一組が結婚式をあげた。
「綺麗だったねぇ、朽木さん。」
「もう阿散井だろ。」
「あ、そうだった。」
いけないいけないと俺の背に乗っかった雛森は楽しそうにケラケラと笑った。
「…この酔っ払い……。」
「ん〜?日番谷君、なんか言ったぁ?」
「いーえ、何にも。」
そう、今日は幼馴染みで恋人同士だった阿散井と朽木の妹の結婚式だったのだ。
そこで酔っ払った雛森を俺がおぶって帰ってる途中という訳だ。
阿散井が俺に負けず劣らず長い片思いを実らせ付き合い出したのは、つい最近だと思ったのに気の早いやつ。
式の招待状を持ってきた阿散井に思わず「もう式をあげるのかよ」と呟いたら、ずいっと真顔で迫られて、
「こういうのは勢いっす。相手の気持ちが変わらないうちに逃げ道は塞いでおくんです。」
どんだけ自信ないんだよ、お前。
しかもその後吐かしやがった台詞が頭にくる。
「お先にいかせて頂きます、日番谷隊長。俺、片思い同盟は外れますけど、日番谷隊長のこと応援してますから。」
などと、ほざきやがった。
人の肩にポン、と手なんか置いたりして。
あんまりムカついたから墨をたっぷり含んだ筆を投げ付けてやったぜ。
どーせ!俺は片思い歴更新中だよ!
早く同盟脱会したいよ!
あ、思い出したらムカムカしてきた。
自分がちょっとうまくいったからって上から目線になりやがって、……腹がたつ。
「朽木さん、本当は六月に結婚したかったんだって、ジューンブライド。」
「女って、そういうの好きだよな。」
「でも阿散井君が一刻も早く式をあげたいって。だから五月になったんだって。おかしいねー。」
雛森の笑い声が背中に振動となって伝わる。
阿散井。あいつ余程切羽詰まってたのか?
「二人共幸せそうだったねぇ。阿散井君、嬉しそうだった。」
「……ああ。」
雛森のどこかトロンとした声が聞こえる。
披露宴の最初のうちこそ二人とも緊張した面持ちでいたのだが、段々慣れてきたのと酒が入ったのとでずっと笑顔が絶えなかった。
けれど酌にまわった吉良が何か言った一言で阿散井のやつ、堰が切れたかのように泣き出したんだ。
そう、正に号泣というやつだ。
そのうち、泣き続ける阿散井をなだめる吉良と朽木も泣き出して、慌てて駆け寄った雛森もつられるように泣き出して…。
会場は一時、騒然としてたな。
まあ、渋い顔していたのは朽木白哉だけで、他の人間は同期四人が集まって涙している様を微笑んでみていたのだが。松本、京楽達なんかは大笑いしていたが…。
「いくら嬉しいっつっても泣きすぎだろう?あれは。」
「う〜、なんだか止まらなくなっちゃったんだよね〜。」
「理由なしかよ。」
「だって、阿散井君にありがとうありがとうって言われてたら泣けてきちゃって。」
思い出したらまた込み上げてきたのか、俺の背中で雛森が鼻を啜った。
きっと四人で共有できる思い出とかが沢山あるのだろう。
だから雛森達の繋がりは強い。
「………同期って、いいな。」
小さく呟いた俺の声は背中の雛森に、しっかり聞こえていたみたいで、後ろから回された両腕に力が入ったのがわかった。
「…………うん。」