ss

□過去拍手・頭の上は空
3ページ/10ページ




B桃





阿散井君達が去った後、周りに誰もいないことを確認して、あたしはいつものように屋上の扉へと向かう。



別に見られてやましいこと……………してるけど。
思いっきり空巣みたいなことしてるけど。




だって、これはあたしだけの秘密にしたいんだもの。





今日も扉の前に膝をついて、鍵穴に針金を差し込む。



最初はピン止め。


でもこれは短かすぎて話にならなかった。


次はそのピン止めを伸ばしたもの。


これも微妙な折れ曲げる位置の調整が難しくて却下。


そして今は針金で奮闘中。


屋上の扉はいまだ開けられない。






つくづくあたしって不器用だと思う。

こそ泥とか空巣とか、絶対になれない。や、別になりたくもないけど…。


「うう、……手強いなあ…。」



カチャカチャ穴を探るけど、一向に開く気配はない。


春が過ぎ夏休みも終わり、もう秋になる。
ルキアちゃんももう剣道部を引退する。


実力ある彼女は県大会で優勝を決め、更に大きな大会へと進む。もし負ければ彼女の部活動は終わるのだ。そして後は受験に向けての日々になるだろう。



あたしは鍵穴をひっかいたり、覗いたりしながら、県大会で優勝した時のルキアちゃんを思い出していた。

仲間達に囲まれてとても嬉しそうだった。
首筋にまで汗をかいて、上気した顔で笑ってた。
ルキアちゃんの最高の笑顔だと思った。










でも
最高の笑顔はまだ他にもある。



あの時の、この場所で見せてくれた、あの瞳。

あたしはルキアちゃんのあの顔がどうしても見たい。


いつもいつも楽しそうに笑ってるけど、どこかに心を残している彼女。
それはルキアちゃんの家庭の事情が大きく関与しているのかもしれない。

昔から自分のことは多くを語らない彼女。
むやみやたらと踏み込んで欲しくないという空気を纏いながら、そのくせ淋しそうで…。



たぶん、あたしではダメなのだ。
ルキアちゃんの淋しさがなんなのかわからないけど、あたしではダメなのだ。きっと…。









鍵は依然、開かない。








「ふう…。指が痛くなっちゃった。」










ルキアちゃんは、あたしにすべてを見せたくはないんだと思う。

それは信頼してないとか、友達として不十分とかじゃなくて、反対に友達だと思ってく
れているからこそ見せたくない部分なのかもしれない。



だからあたしも敢えてルキアちゃんの心の奥底に踏み込むようなことはしなかった。ルキアちゃんがあたしに見せてくれている姿を好きでいられればいいと思う。


そんな彼女だから、あの瞬間に見せてくれた表情にひきつけられたのか。
宝物を見つけた子供のように。夢をたくさん抱えた少女のように。好奇心と期待が入り交じったあの瞳が見たい。
ルキアちゃんとあたし、二人でこの向こうへ飛び出せたら、不動の何かを手にいれられる気がした。






「もう、今日は止めとこうかな。もうすぐルキアちゃんの部活が終わっちゃう。」










結局この日も鍵は開かないまま。










次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ