ss

□過去拍手・頭の上は空
2ページ/10ページ





A冬獅郎




クラスメートの雛森桃は毎日北校舎の屋上への階段を上っている。いや、毎日ということはないか、三日に空けずといったところだ。




俺がそのことに気がついたのは三年になり数ヶ月、図書室の掃除当番に当たったときからだ。

掃除なんて真面目にする気もなく、同じクラスの阿散井達と図書室前の廊下でしゃべっていたら、目の端をお団子頭がよぎって行った。



図書室は3階。

その上はもう何もない。

ただ屋上へと続く階段があるだけだ。
しかもその屋上へ出る扉は年中鍵がかかっていてでられない。
上へ行っても行き止まりなだけ。

なのに、チラリと見えた雛森は間違いなく3階から更に上へと向かう階段に足をかけていた。



その時はたいして気にも止めなかった。けれど、次の日も、その次の日も雛森は上を目指して足を運ぶ。



そして五日目の金曜日。
俺達が図書室の掃除にあたっている最終日だ。

はたして今日も雛森は現われるのか?




俺は密かに3階の階段下の踊り場に注意をはらう。横では阿散井が何か話しかけてくるが、適当に相槌をうっておく。



今日も来るのか?あいつは。
心の中だけで待構えていると、掃除時間ももう終わりだという頃に雛森は来た。


ジッと見ていたら、2階から3階へと続く階段によく知るお団子頭だけが見えた、と思ったらすぐに全身を現す。



雛森は俺達の方を見向きもせず、手すり伝いにいつものごとく上を目指す。



いったい上に何があるんだ。



「おーい、冬獅郎。何ひとりでぼーっとしてんだよ。」



「………阿散井………。」



俺は突然、背後からのしかかってきた阿散井を睨み付ける。


せっかく雛森を見ていたっていうのに邪魔しやがって。



けれど阿散井は俺の睨みなど気付いていないらしく、呑気に笑っている。



「ん?あれ、雛森じゃねぇか。おい!雛森ぃ!」



え……。お前、そんな気安く呼ぶのか?



阿散井のためらいのない行動に面くらいながらも雛森の方へ目をむける。



「阿散井君。」



澄んだ声



「よう、お前こんなところで何やってんだよ。」



「……あたしはルキアちゃんの部活が終わるまで図書室で待ってんの。阿散井君こそ早く部活に行かなくてもいいの?ルキアちゃんが、恋次は最近よく遅刻するって言ってたよ。」



「うお!やべぇ!行くぞ、冬獅郎!」



俺の腕を掴んで走り出す阿散井に、体勢を崩されつつも足を繰り出す。



「じゃあな、雛森!」



「頑張ってね〜」



チラリと振り向いたら、彼女が俺達に向かって手を振っていた。いや、正確には阿散井に振っていたのだろう。

何せ俺と彼女はまだ一度も言葉を交わしたことがない。


少し長い廊下を阿散井の背中を見ながら走る。


図書室へ行くなんて嘘だ。
あいつは明らかに上を目指していた。


角を曲がる時、もう一度振り返ったら、雛森が、まだこちらを見ていた。

















彼女は今日も上へ向かうのだろうか?
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ