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□生きていけないかもしれない
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休み時間になり雛森は井上に何か耳打ちされていた。
井上が気を回して雛森に俺のことを伝えているのだろう。やがて雛森が俺の席へとやってきた。トコトコなんて効果音がつきそうな足取りだけど、今の俺は可愛いなんて思ってやらない。ああ、絶対に思ってやりませんから。
「シーロちゃん、元気ないね、どうしたの?皆心配してるよ。」
「…なんでもねぇ。」
雛森から顔を背けて頬づえついた。
お前の顔なんかみたくもねぇ。きっと小首を傾げてキョトンとした表情でこっちを見ていることは容易に想像できる。
そういう顔も好きだけど、可愛い仕草も見たいけど、見たくないったら見たくない。
「おーい、シロちゃーん。ご機嫌ななめですかぁ?こっち向いてよう、髪の毛ツンツンしちゃうよ?」
言いながら、もう既に俺の髪に手を延ばしていじっているし…。因みに俺の髪に触れていいのは雛森だけだ。
無反応な俺の髪をいじるのをやめて今度は机に顎をのせて見上げてきた。
うっ!
やめてくれ!
俺がその上目使いに弱いと知っての狼藉か!?
「シロちゃあん、どうしちゃったの?お願い、こっち向いてよう。」
だめだ!見てはいけない!
いつもの俺ならここで折れるが今日は違う。
耳も塞いだ。
沈黙が俺達を包んだ時、教室の戸が勢いよく開けられた。
「おい、雛森!お前、携帯落としていっただろ?」
「…………檜佐木先輩?」
下級生のクラスに遠慮もなくズカズカ入ってきたのは俺と雛森の中学からの先輩である檜佐木だった。
「あ…。ホントだ落としてる。」
「ぷっ、しっかりしろよな雛森。」
携帯を受け取り恥ずかしそうにする雛森とそのお団子頭をグリグリと撫でる檜佐木。
おもしろくねぇ…
「用はそんだけですか?先輩。」
さっさと帰りやがれ!
触るな!
69の刺青はなんだ!
「なんだ日番谷?ふてくされてんのか?」
「あ、あの先輩。さっきはその………すみませんでした。あの………だ、だきついちゃって…。」
「ああ、気にすんなって、俺としては、むしろ役得だな。」
その話題に俺はガタン!と立ち上がった。椅子がこけちまったがそんなのは後で直せばいい。
「お、なんだよ日番谷。怒るなよ?不可抗力だからな、事故だからな。」
「…何があったんだよ。」
尋ねながら思い出す。そういえばこの刺青先輩も美化委員だったっけ。つうことは昼休みに雛森と抱き合っていたのは檜佐木か!
「あの、あのね檜佐木先輩は悪くないの!あの…昼休みに花壇の手入れしてたら頭の上に虫が落ちてきてね、隣りにいた先輩に思わず抱き…ついちゃったの。」
よほど恥ずかしいのか最後の方は消え入りそうに小さな声雛森が言った。
「じゃあ………俺が見たのは……。」
「……シロちゃん見たの?」
「あ、や、その……。」
「……はーん、なるほどね。」
やらしい目をして檜佐木が俺をみてくる。
なんだってんだよ。
その見透かした目はやめろ。
「こっちを見るな。用は済んだんだろ、早く帰れよ。」
「日番谷。お前、ホンット可愛い奴だな。ま、心配には及ばねぇってことだ。じゃあな。」
「わざわざありがとうございました先輩。」
ペコリと頭を下げる雛森とその横に立っている俺に手をあげて檜佐木は立ち去っていった。白い歯を見せて片手をあげて颯爽と歩く檜佐木だが不思議と爽やかさとは無縁な男だ。どうしたってガラの悪さが打ち消せない。
きっとあの目付きと刺青のせいだな、うん。
そう結論付けたとき、雛森が口を開いた。
「シロちゃんも声かけてくれればよかったのに。」
「……………かよ。」
バカヤロー!それどころじゃねぇ程の衝撃を俺は受けたんだ!
それに、わざとではないにしても他の男に抱き付いたのはいただけない。
のほほんと笑っている雛森の額をビシッと弾いてやった。
「いた!な!何するのシロちゃん、痛いじゃない!」
うう…。と頬を膨らませて睨み付けてくる雛森につい小さく笑ってしまった。
散々慌てさせられ、ショックを与えられたんだ、本当ならまだまだ許してなんかやらないところだが、意に反して顔が緩んじまった。