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□生きていけないかもしれない
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嘘だ嘘だ嘘だ
さっき見たのは別人だ
俺の目の錯覚だ
雛森が
雛森が…







無我夢中で走った俺はいつの間にか教室へと戻ってきていた。
教室の戸口に手をかけた俺はかなり酷い顔をしていたのだろう。黒崎と井上がすぐに駆け寄ってきてくれる


「どうしたんだよ冬獅郎。」

「冬獅郎君、何かあったの?」


「………別に……。」


荒い息をつきながら一言だけ返事を返す。


「別にって感じじゃねぇぞ。どうした?」


「話して、冬獅郎君。桃ちゃんのこと?」


「!!」


雛森の名前にビクンと反応してしまった。


「そうなのか?」


すかさず黒崎が尋ねてくる。まったくお節介夫婦め。



口をつぐんだままの俺に黒崎達が困惑しているのがわかる。
雛森はまだ戻って来ない。
今もあそこにいるのか?


結局午後の授業始まりのチャイムと同時に雛森は戻ってきた。そしてすぐに自分の席につく彼女。



「あ、桃ちゃん。あの「井上。」


雛森に呼びかけようとした井上を制す。

俺だって聞きたいことは山のようにあるけど今は気が動転して、何を言っていいのかわからないんだ。


席に着く雛森を目で追いながら、俺の脳裏にはさっき見た雛森がフラッシュバックする。



小さな雛森を包むように回された男の腕

細い雛森の指が男の腕を掴んでいた

俺じゃない誰かの腕を










嫌だ嫌だ許さない。
あいつに触れていいのは俺だけなんだ。
あいつの熱を感じていいのは俺だけなんだ。


授業中、そっと雛森を盗み見た。ほんのり頬が染まっているのは外が寒かったからか、それとも男のせいか?









 
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