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苛めっこ×苛められっこ(続き)



雨は降ったが残念なことに小一時間程度であがってしまった。雛森と相合い傘で帰るという計画は天の神様に却下されたみたいだ。まぁいいけど。実は俺も傘忘れてたみたいだし。


「雨上がって良かったねぇ。」


青空には程遠い曇天だがちょうど帰宅時間に止んだのはほんとに良かった。俺はしみじみ言う雛森の言葉に頷いた。


「だな。俺も傘忘れたし。」
「えっ、持ってきてたんじゃないの?」
「鞄に入ってると思ってたのが無かった。」
「…じゃああんなデカい態度とらないでよね。」
「なんだって?」
「いえ!なんでもありません!ほ、ほら!雨が止んでるうちに早く帰ろう!」



誤魔化すように笑って雛森が足を早める。
学校を出てまだ5分。雛森が利用するバス停まではもう少し歩かなけはならない。家の方向は違うけれど俺は何となくいっしょに歩いてた。夕暮れには早いから女の一人歩きもまだ大丈夫。傘も忘れたし俺が彼女を送る理由は何もない。ただクラスメートだから、それだけだ。



「あ…、」


隣りを歩く雛森が宙を見つめて掌を上に出す。その仕草につられて上を見れば冷たいものがポツンと鼻の頭に落ちた。


「やだ、また降ってきた!?」
「走るぞ!」


大粒の雨は瞬く間に量を増し土砂降りに。 その激しさに雛森が悲鳴をあげる。俺達は鞄を仮初めの傘にしてバス停までダッシュした。通り沿いのビルには軒先もなくバシャバシャ跳ねるように豪雨の中を走るしかない。バス停まではかなりの距離だが俺達は走りに走った。


「ぎゃー!濡れるー!」
「土砂降りなんだから当たり前だろ!ばか!」
「わーん!怒られたぁ!こんな時まで日番谷君が怖いよぉ!」
「こんなのまだ序の口だ!」
「確かに!本気の時はゴリラより恐ろしい!」
「お前失礼!」


ザァザァ痛いくらいの雨に打たれて俺も雛森もテンションがおかしい。走りながら二人でワーキャー騒ぐ騒ぐ。視界も霞みそうな雨の世界でいつの間にか俺達はゲラゲラ笑いながら走ってた。やっとバス停に着いた時には二人とも息が切れまくりだ。漸く得た雨宿りの空間で顔を見合わせまた笑っちまった。


「ふわぁ〜びしょびしょだぁ…。」
「タイミング悪すぎたな。」




俺も彼女も全身ずぶ濡れ。頭からバケツで水をかぶったかのように髪の先から雫が滴り落ちる。
雛森がポケットからハンカチを取り出したがそれさえも絞れば水が落ちてきた。


「どうしよう…こんな格好でバスに乗っていいのかな…?」
「仕方な…、」


濡れた前髪をかきあげながら横に立つ雛森に目をやって息が止まった。びしょ濡れの身体に濡れた制服が張り付いてあられもない姿になっている。パステルグリーンの下着が胸元に映って…薄い身体の線がはっきりして…。
見てはいけないものを見た気がして…じゃなくてこれは見てはいけないものなんだ。俺は不自然そのもので横を向く。


「日番谷君?どうし…あっ!」


俺の行動から察したのか雛森が自分の姿を見るなり慌てて鞄を抱え込んだ。そうやって胸元が見えないよう隠してるつもりだろうけど映りこんでいるのは前だけじゃない。背中もぴったり透けてるし身体の線は濡れてほんのりエロさを纏っている。


「……。」
「………。」


真っ赤になって鞄で胸を隠す雛森は羞恥で火がつきそうなほど赤い。頬にかかる雫も蒸発しそうなほど。彼女の肩が微かに震えているのは勿論寒さなんかじゃない。雛森はこの姿でずっと家まで…。
そう考えたら俄かに何かがこみ上げた。
思わず抱え込んで守ってやりたくなる衝動を俺は鞄の中を探る手に代えた。確か鞄の下の方にあったはずだ。


「……?」
「あった。ほら、これ着とけ。」
「うわ、っぷ!?」


取り出したのは部活で使うユニフォーム。真っ赤なそれは多少派手だが透け透けの白いシャツよか遥かにマシだ。俺はそいつを強引に雛森に着せた。


「日番谷君のシャツが濡れちゃうよ…?」
「どうせ洗濯するやつだ。気にすんな。」
「でも…。」
「無いよりマシだろ?」
「……あり…がとう…あの、洗って返すね。」
「ああ…。」


濡れた制服の上にダボダボの真っ赤なユニフォームは傑作なくらいアンバランスだ。でもあんな姿の雛森を他の誰にも見せたくない。彼女の窮地を救ったと言えば聞こえはいいが俺が嫌なだけなんだ。


「あ、バスだ。」
「じゃあまたな。」
「うん、あの、本当にありがとう…また明日ね。」
「ああ…。」


小さく微笑んで雛森がバスのステップに足をかける。その細い背中には赤地に白抜きでHITSUGAYAの文字。なんだか俺のお手つきみたいで少し笑った。これっていいかも。せいぜい世間に見せてくれ。


手を振る彼女に俺は野心家の顔で返してしまった。
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