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□3月3日の勝者
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*シロ桃




祖母がどこからか手に入れてきた雛人形は五段飾り。女の子が途絶えた家の家人から譲り受けたと祖母は言った。幾分古びてはいたが人形師に作られた人形達はとても艶やかで繊細で、小さな傷は有るものの、けっして安くはない代物だろう。よく渡してくれたなと思う冬獅郎に祖母はただ笑っていた。そして桃はその煌びやかな迫力に歓声をあげ、とても興奮した。

雛飾りと言えば毎年、器用な冬獅郎が桃にせがまれて紙で作っていたのだが、今年も既に作らせていたのだが、当日3日に突然やってきた雛人形は冬獅郎の作った紙の雛人形をたちまち隅っこに追いやってしまった。

まぁ、5分もあれば作れる折り紙よりも丹精こめて作られた人形の方が誰でもいいに決まっている。冬獅郎だって桃にせがまれて作っただけで大して気持ちを籠めたわけじゃない。だから別に五段飾りの足元へ申し訳程度に置かれた冬獅郎の折り紙が貧弱に見えたって仕方のないことだった。













粗末な家にドン、と存在感を示す雛人形に桃ははしゃぎ、今夜はこの人形の前で寝るというほど喜んだ。1人分の布団を雛人形の前に移動させ、風呂からあがると早々と祖母と冬獅郎に「おやすみ」を言った。
祖母も冬獅郎も呆れながら、それでも桃の好きなようにさせて眠りについた真夜中、冬獅郎の布団が静かに持ち上がった。そして少し冷えた身体が横へ滑りこむ。


「……ん…桃か?」
「うー寒い寒い。シロちゃん入れてー。」
「なんだよ、お前あっちで寝てたんじゃないのか?」
「…………怖くなった。」
「あ?」
「あのね…お雛様って夜1人で見ると怖いよね…。」
「…昼間はしゃぎ倒してたくせに。」
「あ、あれはシロちゃんとおばあちゃんがいたから…。」


布団の中で少しバツが悪い顔をした桃に冬獅郎はやっぱり呆れた顔をして、そして少し笑った。


「いいけどいっしょに寝るならその紙人形は枕元に置いとけ。当たって痛い。」
「うん。」


桃がずっと握っていた冬獅郎が折った紙雛がさっきからチクリチクリとその角で冬獅郎の腕を刺していたのだ。桃は布団の中で強く握っていたそれをやっと緩めることができた。




灯りが消えた部屋、豪華な雛人形と二人(?)だけになった時、ふと目に入った人形達はみんなみんな白い顔をして桃を見ているようだった。上品な微笑みは外から入る月明かりに照らされて何だか不気味。桃は思わずゾクリとして馴染み深い冬獅郎の紙人形をひっつかんで逃げてしまった。冬獅郎の作った紙人形は魔除けの御守りのようで握っていればなぜか安心できた。その紙雛に縋るようにしてここまで来たのだ。
豪華五段飾りの雛人形の迫力に負けた桃は狭い家の中をバタバタ走り、冬獅郎の元へ逃げて逃げて。いつもの場所ですやすや眠る冬獅郎を見てやっとホッとできたのだった。



冬獅郎の体温で温まった布団の中、桃は冬獅郎の言葉に素直に従いそっと枕元に紙の雛人形を置いた。そしてもう一度改めて「おやすみ」を言い、安心したように目を閉じた。それを見届けて冬獅郎も再び目を閉じる前、ちらりと目に入った雛人形は桃に握られてあちこち折れていたけれど、筆で描かれた簡単な表情が気のせいか勝ち誇ったように見えた。







 
 

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