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□スクープ
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東校舎の二階、一番南端の部屋がこの学校の生徒会室だ。日当たりも良く風通しも良いこの部屋は、通常、放課後あたし達が訪れるまで締め切られている。だから今はとても蒸し暑い。あたしは澱んだ空気を換えるため、窓を開け放った。気持ちのいい風が待ちわびたかのように室内を駆け巡っていく。




今日も今日とてあたし達生徒会役員は放課後になるとぽつりぽつりと王国へ集う。陰じゃあ生徒会を白い巨塔だとか動物園とか言っているやつがいるけど強ち間違っていないとあたしは思う。言い得て妙だ。白い巨塔なら冬獅郎はもちろん院長だろう。動物園なら百獣の王のライオンだ。優しい桃は小児科付きの看護師で、動物園でいうなら草食系の小動物ってとこかしら。あらやだこの二人動物に例えるとまさに弱肉強食だわね。七緒なんかは如何にも心療内科な感じだし恋次はリハビリセンターの理学療法…士……。












風に髪を遊ばせながら機嫌良く空想遊びをしていたら面白くないものを見てしまった。あたしの男が渡り廊下で女子達に取り囲まれている。思わず目を見開いた後、半眼になってしまった。
きっとこの生徒会室に来る途中で女子達に捕まったんだろうけど本人に困った素振りは微塵も見受けられない。むしろとっても嬉しそう。
なーにーよ、鼻の下伸ばしちゃって。


「松本、聞いてんのか?文化部の受け持ちはお前に任せるからな。解ったな?」
「はぁーい。」


まだ役員全員揃ってないが既にライオン会長は仕事がノっているらしい。後ろから飛んできた指示にあたしは背筋を伸ばして素直な返事をした。けど胸の内は眼下の光景にもやもやしている。

あいつが誰と話そうが一々目くじらたてるつもりはないが明らか好意を見せてる相手にまでにこやかに接する必要はないんじゃない?

まったく!にやつくなってーの!あんたがそんなんだから女共が調子に乗って寄りつくんじゃないの!




あたしはきっと小難しい顔をしていたに違いない。直ぐに動かない部下に業を煮やしたのか、年下生徒会長はあたしの背後に立つと同じように窓の外に目をやった。


「さっきから何を見てんだ?…………市丸?あいつあんな所で何をやってんだ?」
「さぁね!っとに、暇なら少しは生徒会の仕事をしろっての!」
「嫉妬深い女は嫌がられるぞ。」
「ああ!?なんか言い……あ、桃。」
「ん?」



女共と戯れるギンの方へ向かって、終礼が終わったのか桃が通りがかるのが見えた。彼女の教室から生徒会室へはあの渡り廊下を通るのが最短距離であるからして、これは偶然でもなんでもない。

あたしが漏らした呟きに、いっしょに窓から外を覗いていた冬獅郎も窓の外に桃の姿を探し始めた。冷静な翡翠の目が心なしか生き生きと輝きだしたような?












先日の一件から冬獅郎の気持ちは知れている。本人は必死に誤魔化そうとしているけれどこんな美味しいネタ、誤魔化されてやるもんですか。あたしはこいつの整った横顔をこっそりと盗み見してほくそ笑んだ。


冬獅郎が密かに桃を好きだとわかってから彼の行動を注意して見てみると、なんだかとても分かり易い人だった。あたしどうして今まで気づかなかったんだろうというくらいチビ会長は分かり易い。 今も桃の姿を見つけると途端に表情が和らいじゃって、それまでのカリカリした空気がいっぺんに吹き飛んでいる。もしかして冬獅郎ってば初恋かしら?モテるくせに堅物だから意外にそれもアリかもね。


「桃可愛いわねー。」
「……………ただのガキだろ。」
「素直じゃなーい。」


言ってやると冬獅郎は面白く無さそうにあたしを睨んだ。その頬はほんのり色づいている。この期に及んでまだ隠そうとする冬獅郎にあたしはさらに踏み込んでやろうとしたが、とてとて外を歩く桃があたし達に気づいてにっこりと手を振ってきたからそれも中断。小さな女の子みたいな笑顔にあたしも冬獅郎もつられて頬が緩んだ。ひらひら踊る彼女の手にこちらも振り返そうとした時、桃の行く手にいたギンが桃の存在に気がついたらしい。それまで喋っていた女共に片手を上げて輪から離れるとギンは接近してきた桃の方へと歩み寄った。にこやかに挨拶を交わす先輩後輩。その光景に嫌な予感がするのはギンを知り尽くしているあたしだけだろう。ギンはここからあたし達が見ていることに気づいているだろうにまったく此方を見ようとしない。


ちょっと待ちなさいよあんた。あたしの隣りには今チビッコ会長がいるのよ。あたしといっしょにあんた達を見ているのよ。桃に近づいていったい何をするつもりなの。あぁなんかもう冬獅郎は見ているっていうよりも凝視!ガン見!お願いだからややこしい事態だけは引き起こさないでよぉ!



あたしは祈る気持ちで稲荷口大明神に手をあわせた。




 
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