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□スクープ
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『いきなりだけど…雛森……つきあってくれないか?』



まさかの告白ここでーーー!?

驚いたってもんじゃない。あの生意気君が告白!やだ、まだつきあってるわけじゃなかったのね!あたしったらすごいタイミングで居合わせちゃったわ!


いつになく緊張した冬獅郎の声が笑えてしかたない。ヤバいわこれ肩が震える。他人の告白シーンに遭遇したのは初めてだけれどこんなに面白いもんだなんて。

戸の影であたしがはしゃいでいれば次いで桃の澄んだ声が響いて。



『いいよ。』






ヒュー!
会長おめでとうございま−ーーーす!
あなたが成功して当然なのが面白くないけどおめでとうございまー−ーーす!


あたしは廊下で惜しみなく無音の拍手を送った。
まさか定期を探しにきてカップル誕生の場面に出くわすとは思わなかった。しかもさっきまで顔を突き合わせていた後輩達。なんかこっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない。明日、二人に出会ったらあたし大笑いしそうだわ。


一件落着した気分のあたしは先に教室で定期をを探すことにした。

さすがに今、中へは入れない。そっと戸から離れようとした時、鞄を持ち上げる音が中から。



『晩御飯の買い出しだよね?あたし今日7時から塾なの。それまでには帰れるよね?』
『……………。』





「ぶぷ!」




思わず吹きだしてしまい、押さえるはずの咄嗟の手が間に合わなかった。
もの凄い勢いで戸が開けば中から出てきたのは赤鬼の形相をした冬獅郎とその後ろで惚けた顔の桃。



「あーーーーーはっはっはっはっ!」
「お前、今の、聞いて……、」
「ええもうばっちり。あはは、桃、あんた結構やるわね!」
「は?あの、何のことですか?」
「あのね、今冬獅郎が言ってたのは、」
「わー!黙れ馬鹿やろー!」
「なんですか?教えてください。」
「なんでもねぇ!ほら、サッサと帰るぞ!」
「え?シロちゃん?」





悪意の無い顔で尋ねる桃。冬獅郎はその手をさっと取って廊下へ促した。あたしは笑いの涙を拭きながら本来の目的を二人に告げる。



「あ、戸締まりはあたしがやっときます。定期を落としちゃったみたいで探しにきたんですよ。」
「ちっ、ほらよ。」
「松本先輩、あたしも探すの手伝います。」
「雛森ほっとけ!」




親切な言葉をかけてくれた桃を赤い顔の冬獅郎が強引に回れ右をさせる。ま、気持ちはわかるわよ。一刻もこの場にはいたくないでしょうね。告白失敗を桃本人に暴露されたくないのが見え見え。


「ありがと桃、でも一人で十分よ。それより買い出しがあるんでしょ?早く行かないと。」


にっこり微笑んで言うと、心配そうな瞳をする後輩の後ろで冬獅郎が殺人鬼の目を向けた。でも今のあたしはそんな彼よりも完全に優位な立場。怯んだりしない。燃えたぎる翡翠の瞳が、喋ったらコロスと宣告しているけれど、この場合有効なのは「脅し」より「お願い」じゃないかしら。




さて、偶然拾った彼の弱み、どう使おう。


卒業するまでたっぷりと楽しませてもらうことに間違いはないけれど。










 
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