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□雛は巣に足を掛けた
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もしも今、自分も日番谷くらい髪を短くすれば半年より以前のしがらみを断ち切れるような気がした。
思えば長く髪型なんて変えていない。ずっと引っ詰めのお団子頭で、その方が機能的だと思ってたから。
「あたしも切ろうかな……。」
ポツリと音にしてみれば、それはすごく名案な気がしてきた。
今から半年ほど遡った雛森は四番隊にいた。その前は十二番隊。その前は藍染との戦いで気の晴れる日々ではなかった。そのずっとずっと前は五番隊副隊長として、ただ前を見て走っていた。あの男の背中を追いかけるように必死に走って。それが当時の自分の喜びだった。生きがいと言ってもいいほどに。
盲目だったのだ。
今ならはっきりとあの頃の己を見つめられる。
もっと周りを見れば良かったとたくさん後悔もした。
けれど誰も雛森に懺悔や悔やみ言など望んでいないのだ。
まわりの空気からは泣いて詫びる暇があるならさっさと立ち上がれと言われているように感じた。仲間達は、あの男の一番近くにいながら本性を見抜くどころか、まんまと踊らされていた雛森を拒絶することなく肩を叩いてくれた。だから自分は今も死神でいることができるのだ。
この胸の痛みはたぶん一生ついてくるのだろう。
後ろを振り向くわけじゃない。嘆くのも止めた。
ただどこか足枷が着けられた鳥のように足が重く、地を蹴っても高く軽く飛び立てない。あと何十年経てば心の底から笑えるようになるんだろう。青空に溶けるように跳ねて行った日番谷みたいに自分も透き通った青に溶けていきたい。
手っ取り早く決別出来る過去がもしあるとするならば、今まで雛森が伸ばしてきた髪がそうかもしれない。
新しい自分になるために先ずは身を軽くしてみようか?
雛森はさっさっとゴミ箱の上でちりとりを払うと頭のリボンを引いた。お団子にしていた覆い布を取ると長い黒髪が落ちる。それを簡単に横で束ねて出かける準備をした。
日番谷のことは言えない。自分も長く髪を伸ばしすぎた。
心機一転を図る儀式は早い方がいい。
できるならうんと短くしてやろう。さすがに坊主頭は遠慮するがやちるくらいなら。きっと日番谷はひどく驚くはずだ。
いつもの人形柄の巾着を掴むとちゃんと戸締まりをして、雛森は日番谷とは反対方向へ向けて歩き出した。