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□雛は巣に足を掛けた
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「ね、どのくらい切る?」


「そうだな、またすぐ切らなくてもいいように短くしてくれ。」


「なんか久々だから緊張しちゃうな。失敗したらどうしよう…。」


「そん時は十一番隊の三席みたいにすればいいさ。」


「日番谷君、思い切り良すぎだよ…。」


「髪型なんか洗いやすけりゃどうでもいい。」


「でも毎朝立たせてるんでしょ?けっこう気を使ってる証拠じゃない。」


「顔にかかるのが嫌で上げてるだけさ。」


「そうなの?あたしはてっきり身長詐欺のためかと思ってたよ。」


「……お前な……。」


「まぁ日番谷君ならどんな髪型でも似合うと思うよ。」


「いいから早くやってくれ。」


「はぁい。」



お客さまとの打ち合わせが終わり、床屋雛森が櫛と鋏を使って日番谷の髪を短くしていく。
シャキ、ジャキ、髪を切る音は紙を切る音より少し歯切れよく聞こえる。

小さい頃、日番谷の髪を切るのは祖母か雛森の役目だった。逆に雛森の髪を切るのは日番谷か祖母。散髪が手慣れていた祖母に比べて雛森が切ると、いつも長さが左右違ったりギザギザだったりでよく日番谷に怒られた。
変な髪型にならないように口うるさく言われたおかげで自分の腕前はかなりのものになったと思う。


雛森はまずは裾を整えると頭のてっぺんの髪を摘まんで半分ほど切った。クセの無い髪がパサリと下に落ちる。それを何回も繰り返し繰り返し、しばらくすると「こけし」みたいに座っている日番谷の周りが銀色の髪だらけになっていた。
横髪を整え、左右のバランスを考えて、最後に前髪を目に入らない程度に揃えて終了だ。



「はい、出来上がり。どぉ?ちょっと短く切りすぎたかな?」


鏡を見ながら自分の髪を触っている日番谷に声をかけると彼は雛森に鏡を返して首の手拭いを取った。


「いや、これくらいでいい。なんか軽くなった。」


「ふふ、また伸びたら言ってね。」


「あぁ、頼む。悪かったな散らかして。」


「あ、いいよ、あたし片付けとくから。それより…また戻るんでしょ?」



散髪の後片付けをしてくれようとする日番谷に時計の時間を目で指した。髪なんか切ってたから日番谷が部屋へ来てから一時間以上立ってしまっている。
ぶらりと仕事を抜け出してきたことなどお見通しな雛森に日番谷は短く「あぁ」とだけ答え、襟を直した。まだ首筋に髪が残ってると痒いから、雛森が後ろから毛箒で項も耳元も綺麗に払ってやった。


「後はもういいから行って。」


「なんか…悪いな。」


「だったら今度散髪代を貰おうかな。」


「分かった。何でも好きな物言ってみろ。」


「本当に?じゃあね、お蕎麦が食べたい。」


「なんだ、そんなのでいいのか?」


「髪切ったくらいでそんなに貰えないよ。」



面白そうに笑った雛森に日番谷も口元を緩め、最後に「またな」と一言、十番隊に戻って行った。

たん、と軽く地を蹴って、あっという間に去って行った日番谷を見送った後、休憩に行く前と髪型が変わってて、乱菊になんて言われるのかと考えたらおかしくなった。片付けのための箒とちりとりを手にくす、と小さな笑いが漏れる。


広げたシートを寄せると糸のような銀髪が毛糸玉のように真ん中に固まった。随分たくさん切ったのだと改めて思う。

他に散らばっていないか念のため箒で辺りを掃くとやはりそれなりに飛び散っていて、それも丁寧に掃きとり、全部纏めるとなかなかに大きな一つの塊になった。その日番谷の銀髪を見て、こんなにも長く伸びていたのかと思った。今雛森が切ったのは日番谷の半年分ぐらいの髪の長さか。また前くらいの長さになるのに半年。今切ったのはだいたい半分だったから、日番谷が生やしている髪は残りの半年分ということになる。
襟足や前髪くらいは時々切っていたんだろうが頭全体となると全く切っていなかったのか、かなり伸びていた。


半年…。
宿主から離れた銀髪を見つめて呟いた。ちょうど雛森が療養を終え、五番隊に戻った頃だ。







 
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