短編1
□お返しはひとつ
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後日
五番隊
「結局さあ、雛森はいくつお返し貰ったの?」
「3個です。日番谷君と乱菊さんと三席君のと。ほんと、さすがに今回は怒っちゃいました。なんであんなことするのかな。」
14日の日番谷の所行を思い出したのか、雛森は腕組みをして頬を膨らませた。
「隊長、今年は頑張ったからねー。」
なんせ、雛森宛のお返しをほとんど全部自ら処分してしまったのだから。
例年だと、ただ追い払うだけだったのに、それだけではダメだということに気がついたらしい。
なりふりかまわぬ自隊隊長の姿に、乱菊はクスリと笑って差し出されたお茶を啜った。
「で?今日は?隊長と約束してるんでしょ?」
「はい。日番谷君の仕事が終わったら行ってきます。」
「いいわね〜。二人で食事なんて。」
「なぜか最近、よく誘ってくれるんです。あたしがあんまり怒るから気にしてるのかなあ」
なるほど、まずは餌付けか…。
隊長、今年は本気で攻めるみたいね。
「あんたといっしょにいたいのよ。」
「え………?」
「ま、楽しんできなさいよ。あたしは隊へ帰って仕事をするわ。たまには隊長に協力しないとね。」
「はあ………。」
乱菊は湯呑みに残ったお茶を飲み干し、勢いをつけて立ち上がった。
日番谷はホワイトデー以来、頻繁に雛森を誘い出している。どうやら本気で幼馴染みに終止符を打つつもりなのだ。
ならば長年仕えた副官として協力しなければならない。
例えば今頃書類と格闘している日番谷を早々に帰宅させるとか…。
「あ、雛森、行く時はおめかしして行くのよ?」
「ふぇ?どうしてですか?」
「その方が隊長が喜ぶからよ。」
「?そうでしょうか?」
「絶対に喜ぶわ。」
雛森に親指をたてて乱菊は去っていった。
彼女が去った後の執務室の戸を眺めながら雛森は、乱菊の何かを含んだような物言いに小首を傾げる。
「…よく、わかんないけど、日番谷君が喜んでくれるなら…。」
めかしこんでいこう、と思う。
あの、熱に浮かされた日、一晩中看病してくれた、優しい彼のために。
そう、彼だけのために。
雛森は、僅かに頬を染め、帰宅準備を始めた。
来年の今頃、二人はきっと…