短編1

□お返しはひとつ
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五番隊執務室




「雛森いる〜?」



カラリと戸を開けて入ってきたのは護廷十三隊きっての美貌の持ち主、松本乱菊。



「あ、松本副隊長。雛森副隊長は本日、病欠されてまして……。」



カタンと椅子をならして五番隊三席が立ち上がり、申し訳なさそうに乱菊に告げた。



「病欠って、あの子風邪かなんかひいたの?」


「ええ。昨日から調子悪そうにしてらして…。今朝、とうとう熱が出たと知らせが来ました。」


「あら〜、そりゃいけないわねぇ。せっかくバレンタインのお返し持ってきたのに。」


掌に乗る綺麗に包装された包みを残念そうに見て、ため息混じりに呟いた。

三席は乱菊のその様子に苦笑して「預かっておきましょうか。」と手を差し出す。



「他にもたくさん預かっているんです。」


乱菊が部屋の隅に目をやれば、なるほど、大きな箱に、はみ出す位に詰め込まれたホワイトデーの品々。


「あの子いったいどんだけバラまいたのよ。」



人のことは言えないのに。
乱菊だってそうとうな数を配ったのだから。

もちろんホワイトデーを期待して。





何気なく箱の中を覗いて見れば、菓子以外の品もたくさん収まっていて、乱菊はこれを目撃した自隊隊長の反応が容易に想像できた。



「ねぇ、これ、雛森の所に持って行くのよね?」



「?はい、そうですが何か…。」



「じゃあ、うちの隊長に見つからないうちに、どこかに隠しておきなさい。さもないとこのプレゼント達、焼却場に直行よ。」


「まさか。いくら日番谷隊長だからって、捨てるわけ……。」





…………あるかもしれない。




「確実に棄てられるわね。」


あの雛森に溺れきっている日番谷が他の男からの贈り物を許す筈がない。

たとえそれがホワイトデーのお返しで、雛森が楽しみにしているものであっても。

二人の間柄が幼馴染みから進展していなくても、だ。



「どどど、どうしましょう!」




「は、早く隠しなさい!うちの隊長、雛森にホワイトデーのプレゼント用意してたわよ。もうじきここにくるはずよ。」


「………いえ、もう先ほど来られました。」



「え!もう!?」



人には仕事を山のように押し付けておいて、自分はさっさと雛森の所に来ていたなんて。



まあ、もっとも乱菊はそんなの知らん顔で抜けてきているのだけれど。



「はい…。それで、雛森副隊長が休まれてる旨をお伝えしたら、俺が仕事が終わったら持って行ってやる、とおっしゃられて……。」



「棄てる気よ、隊長。」



「やはりそうでしょうか?」


「うちの隊長を甘く見ないことね。雛森が元気なら直接渡すことができるけど……。」


「はあ…。私、雛森副隊長が元気になられてから渡すことにします。日は過ぎてしまいますけど……。」



「それが懸命ね。隊長に処分されちゃ元も子もないわ。」


「…ですよね。」



「ほら、さっさと皆の菓子も隠さなきゃ。」



「はい!」




二人の意見が一致したところで、部屋の隅にかためられた菓子類に手をかける。




「日番谷だ。入るぞ。」



「いー!もう来た!」



「間に合いません!松本副隊長!」




ガラリと戸が開けられ十番隊長、日番谷が入ってくる。
予想以上に早い日番谷の来訪に乱菊と三席は箱の前で固まったままだ。



「なんだ松本、ここにいたのか。さっさと戻って仕事しろ。」



「はあ…。あの、隊長は何故ここに?」



わかっていることだが、一応聞いておこう。



「俺か?俺は今から雛森の見舞いに行くんだが、あいつへの届け物も、ついでに持って行ってやろうと思ってな。」


「見舞いって…。まだ勤務時間ですけど…。」


「お前には言われたくない。」


「あああの日番谷隊長、やはりこれは私が雛森副隊長に渡しておきます。けっこうな重さですし、隊長を使うなんて…。」


「遠慮するな。ついでだと言っているだろう。」


ぎろりと睨まれ黙る三席。



「あー!隊長、あたしも雛森の見舞いにいきますんで、その箱預かりますよ。」


「お前は来るな。自分の仕事を終わらせることが最優先事項だ。これ以上油うってたら減給「すみませんでしたあ!」」


ふん、と鼻をならした日番谷は、乱菊のジットリと睨み付ける視線など、まったく気にせずスタスタと箱までくると、「よっ」と声を一つあげて、小さな身体では少し大きいだろう箱を抱えあげた。


日番谷が、そのまま出ていけば、後に残るは乱菊と三席のみ。



「…………皆のホワイトデー、守れなかったわね。」



「はい…………。」






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