短編1
□開花の時
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えー?あたし日番谷君に好きだって言ったっけ?なんであたしの気持ちがばれてるの?ていうかこの余裕の表情はなに?
戸惑う雛森を見る日番谷は益々笑みを深めるばかり。
「あの、………日番谷「雛森………。」
ふわりと日番谷の腕が雛森の背中に回される。今では容易く雛森のことを包み込める大きく広い日番谷の腕。
「好きだ。」
「…………え?」
「雛森が好きだ。誰よりも好きだ。俺だけのものになってほしい。」
「…ひ、つが、……。」
まだ事態を飲み込めていない雛森に「鈍感」と言って少し身体を離し額をこずいた。
「いた!」
「馬鹿桃。来週、お前の誕生日だろうが。だから非番の日を聞いたんだよ。その……いっしょに過ごそうと思ってな。大事な話もあったし。」
「…大事な話?」
「ああ、もう言っちまったけどな。」
「なにを?」
「……好きだ…って、な。……こんなところで言うつもりはなかったんだが誰かさんが派手にヤキモチやくから急遽予定変更だ。」
「や、ヤキモチってーーー。」
「妬いてただろう?」
「…う………。意地悪。」
「どうも」
「むぅ、褒めてないよ…。どうしてそんなに嬉しそうなのよお。」
「当たり前だ。お前が手に入ったんだからな。」
「あたしまだ返事してないよ。」
「言ったも同然だろ。こんな酷い顔しやがって。」
日番谷は死覇裝の袂でゴシゴシと顔を拭いてやる。
「わぷ、…ん、ぶ…。ちょ、やめて…。」
余りにも無茶苦茶に拭かれて抗議の声をあげかけた雛森だが、見上げて見えた日番谷の瞳がこれ迄にない位に優しく細められてて何も言えなくなった。散々悩まされて悲しい思いをさせられて(勝手に誤解したんだけど)、もっと怒りたいのだけれど、泣き出しそうに笑っている日番谷を見ていたら意に反して、へにゃっと笑ってしまった。
不意打ちの笑顔に、雛森の顔を拭いていた日番谷は面食らう。
「日番谷君、だーいすき。一番好き。結婚したいくらい好き。」
とびっきりの笑顔を向けて言われた。ためらいもせずに。日番谷は熱を帯び出した顔を見られないように横を向き呟いた。
「ずるいよ、お前は。……だから天然は困るんだ。」
「?あたしは天然じゃないもん!それに本当のことしか言ってないもん!」
「////それが天然だってーの。」
「だって………。ちゃんと言いたかったの。」
もう日番谷の顔は茹蛸のようだ。額には汗まで浮き出てきた。
せっかく雛森を手に入れて、更にこの勢いのまま自分が主導権を握ろうとしたのだが、さっきの雛森のたった一言で覆されてしまった気分だ。ほんとズルイ。昔も今も、雛森の言動一つにいちいち怒ったり笑ったりをどんだけするんだ自分、とか思ってしまう。きっとこの先も変わらないのだろう。
「はぁ、もう嫌になるぜ。」
それでも彼女の傍が居心地いいと感じる。未来永劫雛森の隣りを日番谷の指定席にしたい。
「え!?い、嫌、……って、日番谷君やっぱりあたしなんか……。」
「馬鹿桃。すぐに早とちりすんな。違うんだ。」
雛森に溺れ過ぎな自分が嫌なんだよ。
そっと耳元で囁けば雛森は恥ずかしそうにしながらも幸せそうに笑った。
それは正に今咲き始めた花のよう