短編1

□開花の時
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「ならいいんだ。」


そうして日番谷は再び書類に向かう。
どうしてこの幼馴染みはこんなに優しいのだろう。ぶっきらぼうなくせに優しい。


「……だめだよ日番谷君。」

コッソリ呟いた。好きな子以外に優しくしちゃ。でないと余計に悲しくなる。嫌いになれない。ジワリと涙がにじんできた時乱菊が戻ってきた。

「お待たせー。今日は蓮華屋の和菓子よ。とっておきなんだから。」


熱いお茶と菓子が雛森の前におかれた。なるほど季節の和菓子らしく青、紫、桃色で上手く紫陽花が作られている。

「…美味しそう。」


「でしょ?疲れた時には甘い物ってね。食べて食べて。」

「はい。いただきます。」


いつも明るく、人を元気にしてくれる乱菊。日番谷君が好きになるのはきっと乱菊さんみたいな人なんだろうな…。と、ふと考えて目を見開いた。


「ららら乱菊さん!来週のお休みって、お休みってーー。」


ガバッと身を乗り出して乱菊に詰め寄った。
そうだ、乱菊さんだ!こんな素敵な人がいつも近くにいるんだもん、好きになって当然だ。

確か隊員達は来週の日番谷は好きな人と休みを過ごすといっていた。ならば来週、乱菊が休みならば日番谷の想い人は乱菊の可能性が高い。


「な、なに?突然。あたしの休みはね〜。」


ん〜、と顎に人指し指をあてて考える乱菊に後ろから声がかかる。


「お前に休みは当分ねぇよ。」


「ええ!なんで、どうしてですか、隊長!」


「当たり前だろが、さぼってたつけだ。」


「さぼってなんかいませんよ!」


「うるせえ。取りあえず俺は来週休みをもらうからな。」

「なんですか?それー!自分ばっかり、ずるいですー!」

騒がしい二人のやり取りの中雛森が瞳を揺らした。

やっぱり休み、とるんだ。

益々噂に信憑性が増す。雛森は掌をギュッと握り締めて胸の痛みに堪える。ギャーギャーと言い合いをしていた日番谷が俯いた雛森をチラリと見て口を開いた。


「あー、雛森、お前、来週の休み…はどうなってる…か…な?」


「いやにぎこちない質問の仕方ですね。」
「黙れ!…んで、雛森、どうなんだよ。お前の休み「うるさいなあ!休み休みって!」

今まで俯いていた雛森は日番谷に話しかけられた途端、キッと顔をあげて叫んだ。そしておもむろに菓子とお茶を掴むとガブガブと食べ出す。


「雛…。」


とっておきの和菓子を腹に納めると最後に、熱いのにもかかわらずお茶をグビグビ一気飲みした。


「雛森、そのお茶熱い……。」


呆気にとられて雛森に見入る十番隊の二人。いったい雛森のこの変わりようはなんなのだろう。


「雛…」


それでも日番谷が声をかけたちょうどその時ダン!とぶつけるかのように雛森が湯呑みを置き立ち上がった。


「あたしに休みなんかないわよ!毎日めちゃくちゃ忙しいんだから!雛森桃は年中無休です!文句ある?」


ギッと目を吊り上げて睨み付けても可愛いばかりなのだが、いつに無くすごい剣幕で怒っている雛森を目の当たりにして日番谷と乱菊は驚いた。

「なによ!日番谷君なんか…、もう、……勝手にすれば!」


大きな瞳からボタボタ、と滴が零れたことに雛森自身ビックリし、慌てて執務室から飛び出した。


「松本、あとは…。」


「はーい、いってらっしゃいませ〜。」


すぐに雛森の後を追う。日番谷にはサッパリ訳がわからないが、とにかく走った。
執務室に一人残った乱菊はソファーにドッカリ座り直し、ずず、とまだ熱いお茶を飲んだ。


「ひょっとしたら長い片恋に決着がつくのかしら?」


気の遠くなるほどの片思いについに終止符がうてるのだろうか?
どうか、二人がうまくいきますように。


「健闘を祈ってますよ隊長。」


乱菊はそっと笑みを零し、もう一度湯呑みを口へ運んだ。











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