短編1

□開花の時
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1五番隊副隊長、雛森桃は浮かない顔をして十番隊の廊下を歩いていた。


「はぁ………。」


知らず知らずため息が零れる。
副隊長となり、かなりの時が流れ、月日は彼女を少女から美しい大人の女へと変えようとしていた。憂いがちに伏せられた長い睫毛や艶やかな唇、惜し気もなく晒された細くて白い項からは甘い色香が感じられ、彼女とすれ違う十番隊隊員は、自然と顔を赤らめてしまうのだ。物憂い表情がまたそれに拍車をかけているのかもしれない。そんな雛森が、五分もしないうちに「はぁ…。」と二度目のため息。
もうすぐ十番隊執務室に着く。
いつしか姉弟以上の想いを抱くようになった愛しい幼馴染みのいる部屋だ。








つい最近のことだ。雛森の耳にその噂が入ってきたのは。
仲の良い五番隊の女性隊員数人でお茶を飲みにいった時のこと


「日番谷隊長、来週の休みは大好きな人と過ごすらしいですよ。」


「なんか気合い入れて贈り物なんかも用意されたらしくて。」


「いよいよ告白ですかねー?」


来週は雛森の誕生日だ。何日も前から日番谷がプレゼントを用意して、何やら計画をたてているらしいと松本が吹聴してまわっている。知らないのは雛森本人だけなのだ。



にひひ、と含みのある笑いを浮かべた隊員達が肘で雛森の脇をつついてきたが、彼女達が言わんとしていることには微塵も気がつかず固まってしまった。

大好きな人!?日番谷君に!?こ、告白!?

突然の衝撃に両手で持った湯呑みがいつまでも口元から離れなかった。

「あ、あの、雛森…副隊長……?」

完全に意識が飛んでいった雛森の目の前で「おーい、戻ってこーい。」とヒラヒラ手を振る隊員達。彼女達にしてみれば、いつまでもくっつかない二人にやきもきして、また恋愛に鈍い雛森に苦労している日番谷の為に、ほんの少し匂わせただけなのだ。なのに雛森は凍り付いてしまって。





「はぁ…。」


十番隊執務室の前でもう一度息を漏らして手をかけた。


「五「入れ。」


…………なんなんだろう、これは。名前を告げる前に返されてしまった。

何よ何よ日番谷君なんか!日番谷君のくせに!シロちゃんのくせに!生意気なんだから!

雛森は戸を勢いよく開けて叫んだ。


「五番隊副隊長雛森桃です!!!書類を持って参りましたー!!!」


バン!!と開かれた戸の前に立つ雛森に日番谷は目を丸くする。


「おま…、なんつー声を出すんだよ。あ〜耳、いてー。」

「日番谷君がちゃんと名乗りをあげさせてくれないからだもん!」


「いつまでも入ってこないからだ。ずっと戸口に立ってられちゃ気が散るんだよ。」


早く書類を寄越せと差し出された日番谷の手にパシンと叩きつけるように手渡すと


「失礼します。」


と背を向けた。これ以上ここにいるともっと酷い喧嘩になりそうだ。そんなのは嫌だ、本当は仲良く話したいのに、お仕事ご苦労様って言いたいのに。けれどどうしても日番谷の想い人が気になって…。
一刻も早くこの部屋から立ち去ろう。そう思っていたのに日番谷から制止の声がかかる。

「ちょっと待ってろ。すぐに仕上げるから。」


雛森の方をみずにサラサラと筆を進める日番谷。


「え…、でも、それ急ぎじゃないから今でなくても……。」


「嫌なんだよ。机の上に書類が溜まってくのが。」


バンバンと印を押して、次の紙に手を延ばす。本当に早く終わりそうだ。


「ゆっくりしていきなさいよ雛森。隊長はあんたにいてほしいのよ。」


「松本。」


「おほほほ、お茶入れてきまーす。」


乱菊に肩を押さえ付けられソファーに座らされた雛森は仕方なく待つことにした。乱菊のいない執務室は静かで雛森は落ち着かない。それに今は日番谷を見てるのが辛い。雛森でない誰かが日番谷の心を占めていると思うと辛くて辛くてたまらない。


「……何かあったのか?」


「…え………?」


「いや…、様子がおかしいから。何か気になることでもあったのかと思ってな。」


「………なにも無いよ。」







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